こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

好奇心の部屋 デロール (たくさんのふしぎ傑作集) (第225号)

モグラの生活』のエントリーを書くのにいろいろ調べていて行き当たったのが「モグラ博士」のお話モグラの話より印象的だったのが、モグラだけではなく様々な動物たちの標本を地道に収集することの大切さだった。先日参加したここのイベントでも、野外利用指導員の方たちが、標本作りをするために集めた動物たち(事故死したものなど)で、冷凍庫が一杯なのだと話していた。標本(剥製)を作るには時間も、そしてお金もかかるものだが、予算が足りなくてなかなか作製が進まないのだと言う。死んだ動物より生きている子供たちにおカネがまわるのは致し方のないことだろうか?

この『好奇心の部屋 デロール』の主人公である"DEYROLLE"も、剥製を取り扱っているお店で、本書によると、

デロールは、今から170年以上も前の1831年に、ジャン・バプティスト・デロールという人がつくったお店だそうです。はじめは学校の授業などでつかう理科実験の道具などをあつかうお店でした。その後、生きものや自然の美しさを大人にも子どもにもわかってもらおうと、世界じゅうのいろいろな国から生きものの剥製や標本を集めるようになり、現在のようなお店になったそうです。

ということで、写真を見ると、ありとあらゆる種類の標本や剥製、鉱物などが所狭しと並べられている。博物館とも見紛うばかりの所だが、そこはパリ、そして展示物は商品でもあるからして飽くまでも美しく陳列されている。一方で、来店している子供たちが質問すれば、お店のスタッフがていねいに答えてくれるとのことで、やはり博物館としての役割も果たしていることがわかる。

また、本書には、

200年ほど前のフランスでは、このように世界じゅうから集めてきた昆虫の標本や鉱物などをいれたガラスケースや棚を家の中におき、そこを”好奇心の部屋”と名づけて、いながらにして自然を味わったそうです。

と書かれているが、これは驚異の部屋のことだと思われる。今や手軽に、手のひらに収まる程度の端末でも、珍しい生き物の写真やその動いている様子さえ見られるけれども、当時の人たちにとってはそれこそ驚異である物たちばかりであっただろう。もの言わぬ動物の剥製や美しい蝶の標本を見て、どんな所で暮らし、どんな動きをするのか大いに想像をかき立てられていたに違いない。本書の最後でも、著者の今森氏はこう述べている。

ぼくは、小さなころからたいせつにしているチョウの図鑑を持っています。図鑑は、動植物の名前を調べるためだけにあるのではなく、絵本のように空想の世界へもさそってくれます。図鑑の中のチョウたちを見ながら、見知らぬいろいろな場所へ旅したり、どれだけ想像を楽しんだことでしょう。

デロールは、じっさいの剥製や標本を見せてくれる図鑑みたいだと、ぼくは思いました。

著者の今森光彦氏は、昆虫を題材にした著作を数多く出していて、子供が小さかった頃(虫好きだった頃)はその写真絵本にお世話になっていたものだが、生き物や自然を直接テーマにしていないこの本を、どうして書くことになったのだろうとちょっと不思議だった。しかし、これを読んで、なぜ今森氏がデロールを子供たちに紹介したかったのかがわかったのだ。

バイスの進化によりヴァーチャルで様々な体験ができるようになり、剥製や標本という形での「実物」は、命と引換えである以上、学術的なものは別として、だんだんと縮小に向かっていくのかもしれない。そういう意味で、事故死含む自然死という偶然を待って作られる剥製たちは、逆に貴重な資料ともいえる。

昨年行った「ジャパン・バード・フェスティバル2017」では、「コウノトリの個体群管理に関する機関・施設間パネル(IPPM―OWS)」のブースで、兵庫県立コウノトリの郷公園が持ってきてくれたコウノトリの剥製に触ることができた。『デロール』でも子供たちがライオンの剥製に触れている写真が載っているが、目の前に来た時の実際の大きさや手触りを実感できるのは、剥製ならではの利点であると思う。もっとも連れていった息子は、死んだ物より飛んでる鳥!とばかりに、フェスそっちのけで手賀沼周辺のバードウォッチングに勤しんでいたわけであるが…。

この傑作集は装丁も素晴らしく、ノンブルのデザインにまで気を配って作られている。デロールのお店にも負けない、素敵な本に仕上がっていると思う。

 

追記:もっと調べてみると、デロールは2008年2月に火事があり、そのコレクションのほとんどを焼失してしまったらしい。月刊誌の発行は2003年なので、この本に写されたデロールは焼失前のもの。今はもう見られないものなのだ。傑作集の発行は2008年なので、火事の報を知って出版することになったのだろうか?

好奇心の部屋 デロール (たくさんのふしぎ傑作集)

好奇心の部屋 デロール (たくさんのふしぎ傑作集)