こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

飛行船にのって(第296号)

本というのは失われたもの、失われゆくものの記録でもあると思う。
たくさんのふしぎ」はニッチなもの、耳目を集めにくいトピックを取り上げているが、そういう事物のなかには、ひっそりと消えてゆくようなものもある。

飛行船もその一つだ。

もちろん、飛行船そのものは消えていない。
が。現在、日本で運航されている飛行船は無い(ような)のだ。
『飛行船にのって』で描かれる、ツェッペリンNT号も、ツェッペリンNTを運用していた日本飛行船も、今はもうない。
飛行船に乗るどころか、飛んでいるところを見るだけでも、海外に行かなくてはならないのだ。一度乗ってみたかったなあ……と思うが、当時のお値段はかなり高額。結局乗れなかった気もする。

この絵本は、どうしても目を、絵の方に持っていかれてしまう。
字がなくても読めてしまうのだ。文章が目に入らない。
飛行船をこよなく愛するのは、文章を付けている天沼春樹氏だが、絵の方がむしろ、飛行船の素晴らしさを雄弁に語っている。
作者としてはどうなんだろう?と思わないわけではないけれど、これはこれで本望かもしれない。

イラストは、キャンバスの下地?がほのかに浮かび上がり、独特の雰囲気を醸し出している。今はもう見られないという事実も相まって、ノスタルジックなことこの上ない。
描かれる人物は陸上クルーや操縦士が主。乗客はほとんど描かれていない。
飛んでいる飛行船の様子、船内から見える風景を中心に描かれている。
主人公はあくまで飛行船なのだ。

描かれているのは、首都圏周辺の遊覧飛行だろうか。26~27ページは新宿警察署裏交差点あたりかな?とか、32〜33ページはレインボーブリッジ付近かな?とか。
風景だけなら飛行機でも見られるかもしれないが、決定的に違うのは景色が流れるスピードだろう。ゆっくり飛ぶ飛行船は、じっくり空を眺めることができる。窓を開けることだってできるのだ。まさに空中散歩だ。

「作者のことば」では、

 「ツェッペリン伯号」が、飛行船としてはじめて世界一周したのは、いまから八十年前の一九二九年のことでした。みなさんがおとなになって活躍しているころ、ちょうど百年の記念の年がやってきます。そのとき、百人もの人を乗せた空の客船が海を越えて行き来しているかもしれません。

と書かれている。果たして10年後、実現するだろうか。

月刊 たくさんのふしぎ 2009年 11月号 [雑誌]

月刊 たくさんのふしぎ 2009年 11月号 [雑誌]