こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

アリジゴク 百の名前(第78号)

アリジゴク「で」遊んだことありますか?

私は筋金入りのインドア派だけど、意外にも子供の頃遊んだ覚えがある。父親の田舎に行った時、軒先の砂地で見つけたのだ。夫に聞いたらもちろん遊んだことがあった。

そこでもう一つ聞いてみた。アリジゴク、なんて呼んでた?って。

いや、アリジゴクだけど?と夫。

夫は実家も転勤族、関東出身だけど西の方にいたことがある。私も関東出身だが「アリジゴク」以外聞いたことがなかった。「アリジゴグ」以外の名前なんてあるの?

 

本書によると、アリジゴグは地域によってさまざまな呼ばれ方をしてきたという。

アリジゴクの動きから取ったもの、巣の形から名付けたもの、アリジゴクで遊ぶときの「歌やかけ声」が由来のもの……などなど。実にさまざまな呼び名がある。バリエーション含めると、その数は百どころではきかないだろう。あだ名が多いというのは、それだけ、とくに子供の「遊び相手」として愛されてきたということだ。

これらの“名前”、今はどのくらい使われているだろう?子供の数が少なくなり、言葉の平準化が進む今、呼ばれなくなったものがたくさんあるのかもしれない。 

それ死語だよねって笑われる言葉がある。でもその言葉はまだ生きている。笑われるということは通じている。使う方だけでなく聞く方もその言葉を自分のものとして知っているということだからだ。たとえ日常で使うことはなくなっても、その人たちが生きている限り、その言葉は死なない。

愛称というローカルな言葉、小さなコミュニティで、まして子供時代に遊びで使っていたような言葉は、他に知られることもなく、ひっそりと消えゆく運命にある。使っていた人たちの死と共に。その意味で『アリジゴク 百の名前』は貴重な記録の書であるともいえるのだ。

アリジゴク自体は、まだまだ「子供の友だち」として現役のようだ。

(天声人語)アリジゴクの春:朝日新聞デジタル