エゾシロチョウは、日本では北海道にのみに生息する蝶。札幌市のHPを見ると、衛生害虫のひとつらしい。
チョウというと花の蜜を吸う成虫のイメージが強いが、チョウ目の幼虫は、たしかに「農作物を荒らす害虫」だ。集団で食害するものは、被害も大きくなる。エゾシロチョウもその一つなのだ。
エゾシロチョウは徹底した集団生活を送るという。本書によると、
いっしょに生まれいっしょに育ち、サナギになるのもいっしょ、チョウになるのも、交尾をするのもこれまたいっしょ、そのうえ、産卵場所もほとんどかわらない。
幼虫の時期に集団生活をしないと、大きく育つことができないのだ。このような集団生活をするムシが、大量発生するとどうなるのか。
この本でエゾシロチョウの「餌食」となるのは、エゾノコリンゴという樹木だ。春、芽吹きの季節。チョウの住みかと化したエゾノコリンゴの木は、その新芽をさんざん食べられてしまう。エゾノコリンゴも負けてはいない。すぐに新芽を吹いて立ち直るのだ。
しかし、翌年もエゾシロチョウにやられることが続くと……今度は食べ尽くされた後、芽吹きをやめてしまう。すると、エサが不足するようになった幼虫は次々に死んでゆくのだ。こうして幼虫が少なくなった後、一斉に芽吹いていく。
こうしたエゾノコリンゴの生き残り戦略も、6年目を迎えると敗色濃厚となり、草原の木たちは目に見えて弱ってくる。 木はもうダメなのか……と思われたところ、突如として幼虫が大量死するという幕切れをもって、エゾシロチョウの物語は終わるのだ。作者は、ある種のウイルスが関係しているのではないかと推測するが、はっきりした原因は定かでないらしい。
作者の本業は獣医師、蝶の専門家ではない。本書は、著者が興味をもったもの(エゾシロチョウの大発生)を追い続け、観察した記録なのだ。自然は、自分が作り出す「物語」の結末を、すぐには見せてくれない。時間をかけじっくりと読み続ける者だけに、そっと教えてくれるのだ。