こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

かしこい単細胞 粘菌 (たくさんのふしぎ傑作集)(第332号)

このエントリーに引き続き、粘菌の「ふしぎ」。著者の中垣氏は、なんとこの粘菌ネタで、イグノーベル賞2回も受賞している。すごい!

変形菌な人びと』を書いた越智典子氏も、粘菌にはエサの好みがあることを言っていたが、やはり食べ物の好き嫌いがいろいろあるらしい。基本的にオートミールだが、どの商品でもいいというわけではなく(!)あきらかに好みがあるということで、いちばん人気は「化学肥料や農薬をつかわない有機栽培で麦粒そのままを、昔ながらの素朴な製法で加工したもの」。おいしくて体に良いものは粘菌でもわかるんだなー…てか、お前はマクロビアンか!

匂いの好き嫌いもあるようで、ヴァニラの匂いはダメ。お酒もダメ(酔っぱらった息を吹きかけたらしい)。タバコの煙は死ぬ。紫外線や青い光は嫌い。寒天培養地に電気を流すとマイナス極に移動。セロファンやガラスは大丈夫だが、なぜか食品用ラップフィルムは嫌い。というように、ありとあらゆる実験をして遊んでいるところが、イグノーベル賞受賞の理由の一端なのだろう。

キニーネという粘菌が嫌いな薬品を使った実験では「逃げるほどではないけれど、ちょっと気になるくらいの濃度」のキニーネを、実験用の通路において粘菌の行動を調べる。

粘菌は、まずは移動をやめて数時間そのままじっとしている。その後キニーネを乗り越えて進んでみたり、Uターンして引き返してみたり、はたまた一部は乗り越えて進み、一部は引き返したり(分かれたとしても”一匹”として管でつながっている)と、

わたしはこれを見ているうちに、まるで人間が、どうしていいかわからないときに、うじうじ迷っている姿とそっくりだと思ってしまいました。

著者に言わしめ、

粘菌は何億年も昔に現れたといわれています。人の祖先は200万年ぐらい。人より何百倍もの長いあいだ、生きぬいてきた、人間の大先輩です。そう考えると、きっと何らかの意味で、かしこく生きてきたのではないだろうかという気にもなってきます。

とまで考えるようになるのだ。

そこで、2つのエサの間に粘菌を置き、どういう形でエサに取り付くか実験してみることになる。一度に2つのエサに取り付くのか?片方のエサだけに寄っていくのか?結果は、1つの太い管を使ってエサをつなぎ、二手に分かれて2つのエサに同時に取り付いたのだった。つないでいる太い管はほぼ直線、つまり”最短経路”をとっていることから、粘菌は合理的な最短経路を作ることができるのではないか?という仮説を立てる。

そこから粘菌を使ったさまざまな迷路実験が行われることになるわけだが、面白さと意義深さを兼ね備えた最高の実験はやはり、イグノーベル賞受賞を決めた「関東地方のJRの鉄道路線図を描かせる」実験だろう。関東地方を模した実験地に、JRの路線にあるおもな街の場所にエサを置いて粘菌を移植すると、一度エサを求めて広がった粘菌が、26時間後、エサをつなぐ鉄道網を作ったというものだ。この粘菌の作り上げた路線図は、実際のJRの路線図とかなりよく似ていて、感心することしきり、感動すら覚えてしまう代物だ。

こんなふうに粘菌で遊ぶことなら、私にもできるかもしれない…と思ってみたが、そもそも「粘菌の実験をするためには、元気の良い粘菌を育てる必要があります」ということで、やはり地道な下準備の上にこそ成り立っている実験なのだった。

ちなみに、本号の英語タイトルは、

"Hi, I'm Physarum. A Single-celled Intelligent Amoeba!"(やあ、わたしはモジホコリ。単細胞だけどかしこい粘菌だよ!)

となっていて、粘菌を擬人化して表現しているところが秀逸だ。

かしこい単細胞 粘菌 (たくさんのふしぎ傑作集)

かしこい単細胞 粘菌 (たくさんのふしぎ傑作集)