こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

小さなプランクトンの大きな世界 (たくさんのふしぎ傑作集) (第137号)

数年前、学習塾主催の理科実験教室で「メダカ博士になろう」というイベントがあり、メダカの卵を持って帰ってきたことがあった。イベント自体は楽しんでいた子供だが、メダカに大して興味もないのだから、その後の世話まで気が回るはずもなく、飼育当番はもっぱら私、という状況が今の今まで続いている。

当初は卵と、続いて孵化した稚魚を、それこそ子供が産まれた時のように熱心に世話をし、ネットでいろいろ調べて環境を整えたりしていた。初代のメダカたちが産卵したときは、卵を別に移したりして2代目の誕生と成長もサポートした。

しかし、3代目が誕生する頃には、すでに私の熱意も失われ、最低限の世話しかしなくなってしまった。これ以上殖えてもマンション暮らしでは場所が限られるので、卵も稚魚も成魚を飼っているバケツから分けないで「自然に任せる」ことにしたのだった。

飼育に飽きたとて、その辺の川に放流するわけにはいかない。というのはご存知の方もあろうが、野生のメダカは2003年5月に、環境省が発表したレッドデータブック絶滅危惧種として指定された一方、メダカは地域毎に遺伝的多様性があるので、安易に飼育メダカを放流することは「遺伝子汚染」の問題を引き起こすのだ。実験教室でお世話になった塾の先生も、絶対に川などに放さないでください、飼うなら最後まで飼ってください、と注意を与えていた。家のメダカたちは、様々な原因でだんだん減っていき、今や5匹あまりになってしまっているが、最後の1匹が死ぬまで責任もって面倒を見るしかないのだった。

最初、小さな水槽でちょろちょろ泳いでいた稚魚たちは、エアーポンプの導入が面倒ということと、こまめに日に当てる必要があるということで、屋内での飼育を断念し、水草の入った10リットルバケツに移されて、南向きのベランダに置かれることになった。メダカというのは案外丈夫な生き物で、今住んでいる南関東なら、盛夏こそ日陰を作ったりしてやるが、厳冬期に氷が張っても死ぬことはなく、春まで生きぬくことができる。

そろそろメダカの話とプランクトンがどう関係するのか、疑問を感じてきた方もあろうかと思うが、まだまだプランクトンではない生き物の話が続く。

今年の2月くらいから、そのメダカのバケツめがけてヒヨドリがやってくるようになった。あまり雨が降らない日が続いていたので、ちょうどよい水場を見つけたというわけらしかった。奴ら(おそらく夫婦)は毎日やってきた。しかも水を飲むばかりでなく、水浴びまでしやがるのだ。ベランダばかりでなく、洗濯物を糞で汚されるようになり、水浴びで跳ねた水も飛び散ったりして不衛生この上ない。いろいろ対策を施してみたが効果はなく、結局あきらめて、不本意ながらいまだに水場を提供し続けている。カラスは字が読めるのかという記事を読むまでもなく、「鳥は人の言葉を解する」という(我流の)俗説を信じている私だが、ベランダに出た私の気配を察して飛び去るヒヨドリに「うんちしてかないでね。洗濯物汚さないでね。」と声をかけ続けたところ、不思議なことにほとんど糞を残していかなくなった。

ようやくここで『小さなプランクトンの大きな世界』の話が出てくるわけだが、本書によると、庭に放置した洗面器の水の中には、

鳥がきて洗面器の水で水浴びしたり、水をのんだりすると、前の水場で鳥の足やくちばしや羽についたプランクトンがとびこみます。

ということで、つまり、ヒヨドリはメダカのエサを運んできてくれているということになる。むろんプランクトンは風に飛ばされてもやってくるわけだから、ヒヨドリのおかげだけとも言えないが、 ともあれ奴らが来るようになってから、人工のエサをあまり与えないようになった。ヒヨドリは雑食なので、メダカを食べるとも言われているが、今のところ家のメダカが被害を受けている様子はない。もっとも迷惑はかけられているのだろうが…。

本書によれば、家のメダカの水も採取して顕微鏡で見てみれば、いろいろなプランクトンがうようよいるのが見つかるのだろうが、簡易顕微鏡はあれど、あの汚い水を観察してみようとかとても思えないのが残念である。

 

作者はプランクトンの研究家であるが、大学の先生かと思えば違って、来歴が振るっている。なんと元警視庁科学捜査研究所研究員なのだ。本書の「作者紹介」によると、1946年(作者は当時中学1年生)からはじめたプランクトン生態観察と写真撮影を続行中、ということでベントレーもかくやという市井の研究者なのだった。もちろん仕事でも、プランクトン類(事件の際の付着物)の検査鑑定を担当していたわけであるが、それはおいしいおまけに過ぎず、平成27年(2015年)で観察歴70年。また、趣味として啓蒙中。」という方が本当の姿なのであろう。でなければ、こんな文章は書けまい。

 さいごに、わたしのいちばんすきなプランクトンのすがたを紹介しましょう。

 ヒラタヒゲマワリのダンスです。まんなかに4つ、そのまわりに3つ、3つ、3つ、3つ、合計16でスクラムをくんでいます。スクラムをくんだまま、それぞれ2本ずつもっている長いベン毛をゆらりゆらりとうごかしながらおよいでいます。何十、何百というヒラタヒゲマワリがいっせいにダンスしているところに出会うと、わたしはうっとりして、時のたつのもわすれてしまいます。

小さなプランクトンの大きな世界 (たくさんのふしぎ傑作集)

小さなプランクトンの大きな世界 (たくさんのふしぎ傑作集)