こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

ニワシドリ あずまやを作るふしぎな鳥(第276号)

作者の鈴木まもる氏は、鳥の巣に特化した絵本を多く描いている。

本号も、鈴木氏の本領が発揮された、素晴らしい絵本だ。鳥そのものもさることながら、やはり圧巻は巣の絵だ。いや、ニワシドリのそれは巣ではない。あくまで“あずまや”だ。あずまやを作るのはオス。ニワシドリの“巣”、子育てに使うものは別にあり、メスが作る。

それでは、なんのために、こんな手の込んだ造形物を作るのか?ひとえに求愛のためである。

特集:ニワシドリの求愛 2010年7月号 ナショナルジオグラフィック NATIONAL GEOGRAPHIC.JP

ダーウィンが来た!」では、うんざりするほど見る光景だが、独身オスというのはあの手この手で猛アピールして、必死に子孫を残そうとする。ニワシドリの場合、それが「あずまやの出来映え」ということになる。求愛のためとはいえ、呆れるくらい大掛かりな工作物だ。知らずに見れば、鳥が作ったとはとても思えないだろう。ここでも、小人が住む家ということで、「リリパット王国が存在した話」として紹介されている。

あずまやの紹介など、現物の写真を載っければいいじゃないか、その方がわかりやすいし……と思われるだろう。しかし、これは絵でこそ意味があるものなのだ。鈴木氏の絵は、ニワシドリが一本ずつ集めて組み上げた木の枝の、それこそ一本一本をていねいに描き上げている。一生懸命材料を集め、渾身の力を振り絞って創り上げるニワシドリに、敬意を表しているとも感じられる仕上がりだ。印刷でこれだから原画はどれだけ美しいのだろう。

「作者のことば」では、

ぼくも昔、奥さんになる人に絵を描いてプレゼントしました。

とあり、ニワシドリの「創作物」に、自らと重ね合わせるところがあったことが述べられている。

絵本作家・鈴木まもるさん 「勉強しなさい」はなし|エンタメ!|NIKKEI STYLE

こちらのインタビューによると、鳥の巣を集め始めたのは「ものづくりであることや、子どもの心を育てるということが絵本と共通すると感じるから」。4浪して入学した芸大を中退するなど、端から見ると回り道の生き方をしてきた鈴木氏を支えていたのは、ご両親の力であったことが書かれている。

「子供が好きなことをするのを見守る」というのは簡単にできることではない。我が子が「好きなことをするのを見守った」結果、どうなるのか、誰も教えてくれないからである。だから、鈴木氏が「母は悩んでいたと思います」と言い、 さかなクンのお母さんが「親は迷いながら、この選択があっていてほしい、という気持ち*1」と振り返るのに、ホッとした思いになるのだ。この人たちも自分と同じように、悩みながら迷いながら子育てしてきたのだな、と。

月刊 たくさんのふしぎ 2008年 03月号 [雑誌]

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  • 発売日: 2008/02/02
  • メディア: 雑誌
ニワシドリのひみつ (ちしきのぽけっと)

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