こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

迷宮へどうぞ (たくさんのふしぎ傑作集) (第46号)

はてなキーワードで「たくさんのふしぎ」は、"マニアックな題材、作家選びがされており"との説明がなされているが、この『迷宮へどうぞ』の著者、種村季弘ほどマニアックという言葉が似合う人もいないのではないか。私が種村季弘の名前を知ったのは、高校生くらいのときだと思うが、「たくさんのふしぎ」を書いていたとはこれまで知らなかった。

高校生当時、青土社の『imago』という雑誌が好きでよく読んでいたのだが、その中に種村氏の「ビンゲンのヒルデガルトの世界」という連載があった。昔から“聖女"好き*1の私が、幻視者であり聖人であるヒルデガルトに飛びつかないわけがない。単行本として出版された時、安くもないその本を、いそいそと買いにいったことを覚えている。

本書はタイトルのとおり「迷宮」が題材であるが、"シュヴァルの理想宮"もその一つとして載っていて、

いくつもの迷路があり、階段があり、ひみつの小道があり、地下室や高い塔もあります。こどものころから空想していた、自分だけの城を、とうとう自分ひとりの手でたててしまったのです。

と紹介されている。

「作者のことば」では、わたしたちの身近にある"迷宮"についての考察があり、たとえばすごろくは、

 コマのゆく先々に、悪者や、怪物や、じゃまものが、まちぶせをしていて、なかなかアガリにゆきつけません。じゃまものをのりこえて、はじめて、中心にたどりつけるのです。

 それには、勇気だけではなくて、サイコロをふるときの、おちつきや、つぎにどれだけコマをすすめるかの、計算が、ひつようです。紙でつくった、迷宮でも、やはり、勇気と、頭のはたらきが、勝つのですね。

という案配で、石けりあそびも、どうくつ探検も、ジャングル・ジムも、みんな迷宮あそびなのだということが書かれている。

 

本書の最後は、こう締めくくられている。

 さあて、みなさん、いよいよ迷宮を脱出しましたね。おめでとう。「そうか、なあるほど。この本も、本の迷宮だったのだな」

 よみおわって、そう思ったでしょう。本も、一種の迷宮なのですね。ですから、みなさんもこの本のなかにはいって、ほら、こうして、でてこられたではありませんか。

 迷宮も本もふくざつになればなるほど、おもしろいんだ。

 こんどは、どんな本の迷宮にちょうせんしようか。

迷宮そのものの本だけではなく、本の迷宮ともいえる著作を数多く残し、“二十世紀の日本の人文科学が世界に誇るべき「知の無限迷宮」の怪人” と評される種村氏らしい、最後の言葉だと思う。

*1:ジャンヌ・ダルクから始まり、ルルドの泉で有名なベルナデッタ・スビルーなど。アビラのテレサを題材にした、ベルニーニの聖テレジアの法悦は大好きな作品のひとつだ。