こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

モグラの生活 (たくさんのふしぎ傑作集)(第267号)

表紙タイトルの「モグラの生活」、よく見ると“グ”の濁点がもぐらを模していてとても可愛らしい。

身近にいながら、これほど姿を見ない動物もないだろう。近所の河原の土手や近隣大学の構内などでモグラ塚は見かけるけれど、モグラ自体を見るのは皆無だ。どんな生活を送っているのだろうと興味は尽きないが、掘り返したところで見られるわけではない。モグラについて書かれた本でも読んで想像するしかないのだ。

動物園などであれば、たとえば多摩動物公園には「モグラのいえ」なる展示施設があるけれど、生態の一端を垣間見ることはできる。子供はモグラの動きに興味津々、訪れるたびに「モグラのいえ」で30分あまりを費やすことになる。

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↑ 子供が撮った「モグラのいえ」のアズマモグラ

展示以上に楽しいのが「おしえて!モグラ先輩!」という質問コーナー。いつ見てもモグラ先輩の回答は面白くてついついにんまりしてしまう。

とはいえ「モグラのいえ」のモグラたちは、それほど活発に動いているわけではない。観察通路の途中で止まっていたり、思い出したように土を掘り始めて前進したり。モグラ先輩がいうとおり「12時間食べないと死んじゃう」生活ではないことがよくわかる。『モグラの生活』でも、捕まえたモグラを飼育箱で飼って観察しているが、なんと一日18時間近くも寝ているのだ。それでも一日に食べる餌の量はミールワーム200匹近く、体重の半分近くの量に匹敵する量だ。水も1日で約10〜20ml飲むということで、

これだけの量の餌と水を、毎日自分でとるのはきっと大変でしょう。自然界ではもっと長い時間起きていて、必死で餌をとっているのかもしれません。

と書かれている。

著者は、観察用トンネルを作って実験したり、自然の中でのトンネルを観察したりとさまざまな試みをしているが、とくに面白かったのは、モグラの巣を探すまでの過程だ。モグラの専門家にあたるのかと思いきや、相良直彦氏というキノコ研究をする先生のところへ向かうのだ。モグラとキノコはどう関連しているのか?その不思議な関係は、ぜひ本書を読んで確認してみてほしい。

飯島正広氏の本業は写真家、モグラの専門家というわけではない。知りたい、見てみたいというシンプルな好奇心を原動力にして書かれたこの本は、子供の目線にもぴったり合って、優れた絵本になっている。

その道の専門家が書いた「ふしぎ」も面白いが、『ムクドリの子育て日記 (たくさんのふしぎ傑作集) (第110号)』や『消えたエゾシロチョウ(第264号)』『分水嶺さがし(第377号)』などを読むと、“素人”であっても好奇心と行動力、観察力さえあれば誰でも科学者になれるのだと教えてくれる。そしてその道は、専門家と呼ばれる人たちが作り上げるものと遠くにあるわけではなく、意外と地続きにあることがわかるのだ。

モグラの生活 (たくさんのふしぎ傑作集)

モグラの生活 (たくさんのふしぎ傑作集)