カワウの扱いはカラスのそれと良い勝負だ。
どちらもありふれた鳥で、はっきり言えば嫌われもの。むしろ害鳥としてマークされる存在でもある。子供とバードウォッチングしていても、あれ何かな?あ~カワウかあ……という感じで、あまり観察されることもない。
本書で
遠くから見ると、からだが真っ黒に見えるので、カラスと勘違いされることもあります。
と書かれるとおり、外見もカラスと見紛うばかり。作者が言うところの「全国どこでも見られる水鳥」だからこそ、かえってその本当の姿を知らずにきてしまっている。
表紙のカワウの姿を見よ!
カラスとは似ても似つかぬ鳥ではないか。もちろんカラスだって別の美しさがあるけれど。作者はカワウの美しさを次のように表現している。
羽は味わいのある金茶色のうろこ模様で、光を反射し、目は緑色にすきとおっています。
よく見れば美しい鳥なのだ。
しかしその美しさも、人に被害を及ぼす「害鳥」という不名誉の前では霞んでしまう。
カワウがコロニーを長く使いつづけると、やがてそこは白い糞でおおわれて枯木が目立つようになります。
夏に訪れた琵琶湖の湖北野鳥センターのお話によると、このような植生被害に加え漁業被害のため駆除の対象になっているという。身近なところでは秋川でも鮎釣りや鮎漁の敵として目されている。漁業被害を引き起こすところがまた、本文で言われるところの「川のギャング」と呼ばれる所以なのだ。
意外なことに、カワウはかつて絶滅の危機に瀕していたことがあった。1960年代〜1970年代にかけて水辺の開発に伴い、生息数が合わせてたったの3,000羽あまりにまで落ち込んだという。今では想像もできないことだ。
いろいろな場所でカワウの姿を追いかけるようになってよくわかったことは、カワウのいる場所には必ず、かれらの食べ物となる多くの生きものたちが棲んでいるということです。むかしも今も、優れた自然の残る水辺に暮らし、まるで豊かな水辺の番人・守り人のように見えるのが、カワウたちの本来の姿なのだと思います。(「作者のことば」より)
この絵本は、ごくごく身近な鳥、しかも害鳥として人間に敵視されているカワウの、その美しさを知らしめ、名誉回復を図ろうとするものなのだ。カワウの大ファンという作者の面目躍如、長年身近な自然を観察してきた「先生」だからこそ作れる作品だ。
先生はカワウ好きが高じるあまり「作者のことば」近影では、なんとカワウコスプレを披露されている。このカワウ衣装セットは藤前干潟の「稲永ビジターセンター」で借りられるようだ。いつか訪れて子供に着せてみたいものだ。
水辺の番人 カワウ (月刊たくさんのふしぎ2017年11月号)
- 作者: 中川雄三
- 出版社/メーカー: 福音館書店
- 発売日: 2017/10/03
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