こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

ナミブ砂海 世界でいちばん美しい砂漠(第374号)

たくさんのふしぎ」は絵本だ。基本は絵と文でできている。

本号を含む三年間(第361号〜第396号)36冊でざっと見ると、絵で作られたものが22冊、写真で作られたものが14冊。6割くらいは絵で作られている。「こどものとも」「かがくのとも」で長年培ってきた絵本づくりのノウハウを「たくさんのふしぎ」でも存分に発揮しているのだ。もっとも創刊号の『いっぽんの鉛筆のむこうに (たくさんのふしぎ傑作集) (第1号)』は、絵も写真も使われているのだから、どっちで作られてるかなんて気にすることもないのだけど。

しかしこれは写真でしか伝わらない、写真でしか表現できないというものもある。この『ナミブ砂海』もその1冊だ。副題「世界でいちばん美しい砂漠」の名に恥じない美しさだ。

 

「作者のことば」では、“現代絵画のようなナミブ砂漠の写真”についての顛末が語られている。ナミブ=ナウクルフト国立公園内「デッドフレイ」と呼ばれる場所で撮ったものだ。作者は“奇跡的な一瞬の体験”を通して撮られたこの写真を、世界初の自分だけのものだと思っていた。しかしそれ以前に、自然写真家フランス・ランティングによって撮影されていたことを知る。『NATIONAL GEOGRAPHIC 2011年 06月号』に掲載されたものだ。

ナミビアの大自然 | ナショナルジオグラフィック日本版サイト

私も、ナショジオを取り寄せて写真を比べてみた。驚いたのは木のシルエットがほとんど変わっていないこと。野村氏がこれを撮ったのは2012年5月。ランティング氏が撮ったのはいつ頃か定かでないが、この写真は朝日の射す角度が関係しているので、同じ5月あたりかもしれない。だとすれば、少なくとも2010年には撮影されていたことになる。

本号本文中に書かれている、

デッドフレイの木は800年から1000年くらいまえに枯れたアカシアの木だということです。水が集まってくるソススフレイとは対照的に、デッドフレイはあまりに乾燥しているため、バクテリアすら生きられないので、木が腐ることなく何百年も立ちつづけているというのです。

ということを鑑みれば、変わらないというのは、そう驚くべきことではないのもしれない。

こうして比べられるのは、どちらの写真もほとんど構図が変わらないからだ。

しかしランティング氏の写真が、

『ナショナル ジオグラフィック』誌の写真家は、綿密に計画を練ります。現地に足を踏み入れる前に、特定の場所を選んでおくことも多いんですよ。今回、ランティングには幸運にも妻のクリスティン・エクストロムがついていて、調査や必要な物の準備を手伝ってくれました。私たちが記事を作るときにいつも重要となるのは、写真家に現地の状況を調査するための十分な時間をとってもらうこと。光が当たるのはどの場所か、一般の人たちはどの時間帯にそこを訪れるのか、起こりうる問題は何かなどといった点を事前に把握してもらうのです。そうすることで、もっとも理想的な時間にその場所を訪れることができるのです。(「「写真? それとも絵?」“ナミブの砂丘”はこうして撮った」より) 

こうした綿密な計算の上に成り立っているのとは対照的に、

なにかの予感につきうごかされて、僕はザックから500ミリの望遠レンズを取りだし、カメラに装着、ピントを合わせると、死の世界は一変、見事な一枚の絵が出現しました。

野村氏の写真は、偶然が与えてくれたチャンスによって撮られたものなのだ。

無論、どのようなプロセスだろうが、写真は写真、撮られたものがすべて。野村氏もランティング氏も「自然写真家」として撮影を生業とするプロなのだから。

乱暴を言えば『ナミブ砂海』の価値は写真にあるのではない。

日の出前の“死の世界”から、夜明けを告げる真っ赤な朝焼け、そして絵のようなデッドフレイの風景が出現する。それらが瞬く間に消えていくまでの時間……その“奇跡的な一瞬の体験”が描かれているからこそ、添えられた写真の輝きが増すのだ。セレンディピティは誰にでも訪れるということを教えてくれる。

ナショジオは今年1年「鳥」をテーマにした記事を特集するようだ。子供の『BIRDER』とともに楽しみに読もうと思っている。