こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

お姫さまのアリの巣たんけん (たくさんのふしぎ傑作集) (第150号)

ここ3年、毎年のように参加しているのが近隣大学の公開講座「身近なアリを知ろう」。

アリについての講義の後、“アリエンテーリング”の活動が始まる。先生お手製の吸虫管を使って構内のアリを採集しては顕微鏡を使って同定し、レア度に応じて点数を競うものだ。会の終わりには、日本蟻類研究会会長近藤正樹氏の作詞作曲による「アリの朝」を、ご本人自ら披露してくださったりと、盛り沢山の内容となっている。前2年は夫が同行したが、昨年は仕事の都合で私が参加することになった。吸虫管の扱いに慣れた子供が、構内を駆け回ってはアリを吸い込みまくる一方、私はなぜかアリではなく、吸うはずの無い土や砂が口の中に入り込んできたりでなかなか苦戦した。原理としては「ママ鼻水トッテ」と同じだが、そういえば子供の鼻水が口の中に飛び込んできたこともあったなあ(オエーッ)と遠い目で思い出したのは余計な話だろうか。

関係はないが、本書でも、仙人の術によってアリの巣たんけんに出かけることになった“蟲愛づる姫君”と5人の親友たち(全員男子)が、術から解放されるときに、自らの鼻の穴に吸い込まれていく様子が描かれている。

私は、本書に出てくるアリの種類ほとんどを、公開講座で見ているはず……だが、どんなアリだったのかほとんど忘れてしまった。そもそも公開講座の時だって、どれがどれだか同定できない始末。大きさが異なり、色もさまざまである分、まだ野鳥の方が簡単な気がする。見る人が見れば、何言ってんだ、アリだって色も形も皆べつべつではないか、ということになるのだろうが。

そんな目をもたない私でも捕まえることができたのは、一頭の羽アリ。吸虫管を使わなくても手で捕まえられるサイズだ。「羽アリ」と表現する時点でお察しだが、正しくは結婚飛行中のアリ(というのも初めて知った)。近くで活動中の先生に聞くと、これはサムライアリの女王ですよ、と教えてくださった。教室に持ってかえると、サポーターの専門家の方や学生さんたちがこれは珍しいですねーと何度もおっしゃってくれたが、へーそうなんですかーと答えるほか能が無いのが悲しいところである。

子供はといえば、前年参加した夫の話によれば、1年生の時よりかは自分で見つけられてたよということ。今回はさらに成長した姿が見られるかなと思っていたところ、予想外の上々の戦果になった。私もサムライアリで少しばかり貢献したのは言うまでもない。

 

『お姫さまのアリの巣たんけん』は、マンガテイストの絵×お姫さまの冒険譚という体裁を取りながらも、内容はかなり本格的。アリの種類や大きさといった基本的な情報から、クロヤマアリの女王の一生や、サムライアリの“奴隷狩り”、クロシジミなどの好蟻性昆虫の話まで、多岐にわたる生態について描かれている。身近にいる昆虫ゆえ、写真を多用しがっちり硬派な科学絵本として作られてもおかしくはない。主人公をお姫さまにすえ、お話風に軽やかに描く手法は、ムシが活躍する物語絵本を数多く手がける作者ならでは、昆虫をこよなく愛す作者にしかできない仕事だと思う。

本書だけでも面白いが『アリのくらしに大接近』と『アリの巣のお客さん』を合わせて読むことをおすすめしたい。『アリの巣たんけん』で描かれているものが、リアルな形で見られる上、より詳しく書かれているからだ。 ベストセラー『昆虫はすごい』で一躍有名となった丸山宗利氏の最新刊『昆虫こわい』の中で、丸山氏をして、

 同行者は長年の相棒であり共同研究者、風変わりな小松貴君(以下、奇人)、そして愛玩用のアリの販売をかてに生活している島田拓さん(以下、たっくん)だ。
 奇人はとにかく虫のことをよく知っているうえ、虫を見つけるのが上手い。たっくんは好蟻(こうぎ)性昆虫採集の腕では、間違いなく世界一だろう。私はいろいろな本や論文を読み込んでいるので、採集の腕はソコソコだが、知識だけには自信がある。そういうわけで、この三人が揃えば、好蟻性昆虫採集の最強トリオであることは間違いない。 

と言わしめた「最強トリオ」によって作られたこの2冊は、アリについての最強の写真絵本と言っても過言ではないだろう。 ちなみに『昆虫こわい』を斜め読みしていた子供は、この2冊を見てあ、奇人とたっくんの本だよ!(丸山先生はどこいった)と初めて見るもののように声を上げていた。えーと、これ、アリの公開講座の前に読んでやったことありませんでしたっけ?

お姫さまのアリの巣たんけん (たくさんのふしぎ傑作集)

お姫さまのアリの巣たんけん (たくさんのふしぎ傑作集)

アリのくらしに大接近

アリのくらしに大接近

アリの巣のお客さん

アリの巣のお客さん