こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

川は道 森は家(第378号)

テルマエ・ロマエ』で一躍有名となった漫画家、ヤマザキマリの息子の名はデルスという。彼女はイタリア留学中に恋人の子供を身ごもり、別れ、一人で出産をした。名匠・黒澤明の映画「デルス・ウザーラ」から、子供の名を取ったのだと語っている。『川は道 森は家』の舞台となるのは、そのデルス・ウザーラが、探検家ウラディミール・アルセーニエフの案内役として活躍したシホテアリニ山脈だ。作者が旅したルートも探検隊と重なるところがある。デルスはゴリド族(ナナイ族)の猟師であったが、本号で著者のガイドを務めるのも、ウデヘ族という同じツングース系に属する民族の猟師だ。 

おもて表紙の写真だけではわからないが、本号の表紙を見開きにすると、作者が旅したビキン川と川沿いの森の、雄大な風景が広がる。なぜだかわからないけれど、心ひかれる風景だ。意識していなかったが、どうやら私は"北の方にある森"に魅せられる傾向にあるらしい。

この号は、出た当時に読み聞かせしてやっているが、合わせて読んだのが『森の人 デルス・ウザラー』という絵本。 『鹿よ おれの兄弟よ』でも素晴らしい絵を描いている、ハバロフスク生まれのパヴリーシンによる挿絵が美しい。登場する動物たちもほとんど一緒で、今回もう一度合わせて読み直したが、見比べると本当に楽しい。特に『デルス・ウザラー』は野鳥が多く描かれているので、子供は初めて見たかのように熱心に読み込んでいた。野鳥の名前をほとんど知らなかった時と、今とでは、読み方もそして考えることも大きく異なるのだろう。

『川は道 森は家』のなかで、力強く飛び立つコウライアイサは、『森の人』では岸辺の岩の上で羽を休めている。『森の人』のなかで「下流の河口ちかくには、タイメンやナマズがたくさんいます。」と書かれているタイメンは、『川は道』ではおいしそうな魚のスープの材料として登場している。『川は道』で作者が着ける冬用の靴が、ヤール村の女性の手でアカシカの皮から作られたものならば、『デルス』は隊長(アルセーニエフ)のために、シラカバの木から皮を剥がし、手早く傘を作るのだ。

森の人 デルス・ウザラー』の訳者である岡田和也氏は、「はじめに」でこう述べている。

 デルスは、クマや霧や魚や星を「ヒト」とよび、人とばかりでなく、たき火や川、魚やトラなどの動物たちとも、わけへだてなく話をします。きびしくうつくしい自然のなかで猟をしながらずっとひとりでくらしてきたデルスは、人がいちばんえらいのではなく、人もおおきな自然のちっぽけな一部分にすぎないことをよく知っています。だから、自然のことばがわかるのかもしれません。

一方の『川は道 森は家』でも、ビキン川は人々の道であり、そしてウスリータイガは彼らの家であると語られている。さまざまな生きものたちが暮らす豊かな自然は、人間もそうした自然と関わりあいながら生きる、生きもののひとつであることを教えてくれるのだ。

ここでは動物も草木も人も、同じ森に、同じ家に生きるものどうし。

誰もが流れのほとりで、いのちをつないでいる。(本文より)

『デルス』は探検隊が解散した後、隊長が用意してくれた町の家、ハバロフスクには住むことができなかった。みずから森へと帰っていき、そこで命を終えた。『川は道 森は家』で、自分が獲ったツキノワグマの毛皮を誇らしげに見せていた猟師のナジェジダは、すでにこの世を去ってしまったが、伊藤氏はタイガの風景のなかに彼女の姿を見るという

自分が愛する土地で生き、その生を終えることのできる人は幸せだ。ふるさとの自然が破壊され、家を故郷を失い、家族までも奪われ、見知らぬ土地に引き離され、そこで生を終えるかもしれない人々のことを思うと、心が痛む。

川は道 森は家 (月刊たくさんのふしぎ2016年9月号)

川は道 森は家 (月刊たくさんのふしぎ2016年9月号)

 
森の人 デルス・ウザラー

森の人 デルス・ウザラー

  • 作者: ヴラジーミル・クラーヴジエヴィチアルセーニエフ,ゲンナージイ・ドミートリエヴィチパヴリーシン,Gennadii Dmitrievich Pavlishin,岡田和也
  • 出版社/メーカー: 群像社
  • 発売日: 2006/05
  • メディア: 大型本
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