こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

ウナギとりの夏(第329号)

丑の日だ。

うなぎが減ってきているというニュースを聞いてから、あまり買わないようになったが、今日はどこのスーパーでもお誘いが多いだろう。夕飯はうな玉丼になりそうだ。

前住んでいた鹿児島は養殖がさかんな地域。スーパーでもよく買っていたし、お店にも行って食べていた。関東にある実家近辺はうなぎが有名だが、実をいうと柔らかく蒸した関東風より、焼きの強い“関西風”が好みだったりする。関東ではみな頭を落として売られているが、頭付き(どうせ食べないけど)というのも、ちょっとだけ嬉しい。

夫の父方の、今は亡き祖父母のところはせいろ蒸しが名物。私はこの料理には目がない。遊びに行く度に、行きつけのお店で食べさせてもらったものだ。たれが染みたご飯ごと蒸すので、熱々でふわふわ、添えられた錦糸卵の彩りが食欲をそそる。家でも味が懐かしくて、蒸し器を使ってせいろ蒸し風に作ったりもするが、お店で食べるのにはやはり適わない。

こと食べることについて話は尽きない。しかし鰻の生態は?とりかたは?捌き方は?生のものの焼き方は?となると、ほとんど何も知らないことに気づかされる。夫の祖父母のところでは、家の前の川にうなぎがいたので、昔はよく獲っていたという。夫の父が川を見ながら話してくれた。職場の同僚の人は高知出身だが、やはり実家近くの川でうなぎをとり、七輪で焼いて食べたりすると話していた。スーパーで買うものではないそうだ。

『ウナギとりの夏』は、この「とって、さばいて、食べる」を余すところなく描いた絵本だ。絵日記調のやさしい絵が、夏休みの雰囲気を存分に出していて、ムッとする夏の空気、川の水の冷たさ、そしてうなぎを焼く煙のにおいまでも、その場にいるかのように伝わってくる。

先日のダーウィンが来た!では、横浜市を流れる柏尾川にいるうなぎが取り上げられていた。

「都会で発見!絶滅危惧種ウナギ」 - ダーウィンが来た!・選 - NHK

学習の一環として小学生が仕掛けた筒にも、少なからぬ数が掛かっていて、案外身近な川にいるものなんだなと驚かされた。ここにいるなら、家の近くの川にも絶対にいるはずだが……遊漁料がなかったとしても、獲ろうとする気はとても起きないのが残念なところだ。というのは、柏尾川のうなぎは人間の活動のおかげで生活しているからだ。投棄された鉄板などの人工物が絶好の隠れ家になっていること、そして流れ込む排水の温度が一定に保たれていること。下水処理施設が近くにあり、投棄物も少なくない我が家近くの川も、どこからかたどり着いたうなぎがきっと暮らしているだろうが、鮎が不味いのだから鰻の味だって何をか言わんやというところだ。

養殖物も天然のシラスウナギに依存している以上、本来は身近な川で自家用にとって食べるくらいがちょうど良い魚なのだろう。身近な川で「獲れない」のであれば、潔くあきらめて食べないという選択も必要なのかもしれない。今日たぶん鰻を買ってくる私が、どの口で言うのかと思われるだろうが、丑の日だけの大量消費を見直す時がきているということだ。『ウナギとりの夏』のような風景が、かつては見られたんだよ、と過去のものにしないためにも。

ウナギとりの夏 (月刊 たくさんのふしぎ 2012年 08月号)

ウナギとりの夏 (月刊 たくさんのふしぎ 2012年 08月号)