こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

ウナギのふるさとをさがして(第244号)

夏休みが来た。宿題もやってきた。どういう風の吹き回しか、初日からブッ飛ばして課題に取りかかり始めている。長期休暇恒例の「おすすめ本の紹介」も早々に仕上げた。書いたのは『ウナギのふるさとをさがして』。

冒頭には選んだ動機が書かれているが「丑の日だから」。同じようなことを書くとは、所詮私の子ということか。あとはあらすじをだらだら綴って終了。やっつけ仕事としか言いようがない。書き直させたいくらいだけれど、この暑さで子供とバトルする気力がわいてこない。もういいや。終われば。

ウナギのふるさとは南の海。そこで産卵がおこなわれ、ふ化した稚魚たちは川へと旅立つ。しかしウナギの産卵場所は謎に包まれていて、卵や稚魚を見つけることのできなかった時代、アリストテレスなどは、ウナギは泥の中から自然発生するのではないかと考えていた。

本書が書かれた時点でも、産卵場所を突き止めるところまではいっておらず、前段階のレプトケパルスを探すところから始められる。しかし!マリアナの海というところまでは行きついても、海は広い。「大海原の中からわずか数十ミリのウナギのレプトを見つける」というのは、まさに干し草の山から1本の針を探すようなもので、

最初にネットを降ろす前に、調査員全員がネットのまわりに集まり、成功を祈ります。

とか、

なかまの研究者も、研究室に神棚をつくり、ネットを入れる前に柏手をうって、神様にお願いしはじめました。

とかいう神頼みの世界になってしまうところが、微苦笑を誘われる。

2012年に放送された、

第293回「ウナギ大調査!産卵の謎を追え」 ─ ダーウィンが来た!生きもの新伝説 NHK

でだって、

正直申しますと撮影前、私は「卵を見つけるのは宝くじをあてるより難しい」と思っていました。

と書かれているくらいだ。しかし、3ヵ月という短い期間で、産卵直後の卵を大量に採取し、ピンポイントで産卵場所を特定することができたのだから、もはや神頼みの時は終わりを告げ、長年の研究調査の積み重ねが結実する日が来たということなのだろう。

この『ウナギのふるさとをさがして』の作者は、「うなぎ博士」たる塚本勝巳氏ではなく望岡典隆氏だ。しかし、

古代ギリシャ時代からの謎だった「ウナギの産卵場所」を突き止めた! | 特集記事 | NatureJapanJobs | Nature Research

の記事を見ると、

大気海洋研究所では1973年より、西マリアナ海嶺南部において、研究船「白鳳丸」を使ったウナギの産卵場調査を続けてきた。当時、大学院生だった塚本教授は第一回目の研究航海から参加し、ウナギの生態に魅せられていったという。まず、1991年には、フィリピン海の中央部の比較的表層域(0〜400m)で10㎜前後の小型レプトセファルスを約1000尾採集するのに成功した。

と書かれていて、本書にも、

 けっきょく今回の航海は、合計911尾ものウナギ・レプトケパルスがとれ、大成功です。とれたレプトのうち、もっとも小さいものは7.9ミリ。これまでの最小記録は34ミリでしたので、記録をいっきにぬりかえた航海になりました。

との記述がある。そして本書の「作者のことば」でも、

 一九九一年6月30日の深夜、ふ化後間もないウナギのレプトにはじめて出会ったときの興奮を、私は今でも忘れることができません。この本では、ウナギの産卵海域を発見した歴史的航海を紹介しました。

と書かれているので、お二人は同じ船に乗って、この本で紹介されている同じ研究調査をされていたのだと思われる。狼林氏による端正な挿絵にも、塚本先生らしき人物が描かれているのが見られる。

「作者のことば」の最後は、

 平成17年の夏、私たちは白鳳丸にでマリアナ西方の海に行きます。第12次ウナギ航海です。今度こそウナギの産卵場所の「町」の名前を明らかにしたいと思います。もし発見できたら、新聞などで報道されるでしょう。みなさん、楽しみにしていてください。

と締められているが、この第12次ウナギ航海では、実際に大きな発見があった。

この記事を見るとわかるとおり、「ウナギの産卵場所の「町」の名前」がわかったと言ってもよい発見だ。二つの仮説、すなわち産卵場所を特定する「海山仮説」と、産卵のタイミングを示す「新月仮説」(本書でも言及されている)を総合して、

「ウナギは夏の新月マリアナ沖の3海山のいずれかで産卵するはずだ」

という仮説を立て調査を行ったところ、卵こそ取れなかったが実際に、

「6月7日の新月、スルガ海山の西方約100kmの地点で、プレレプトセファルス(2日齢)を約400匹採集する」

ことに成功したのだ。「卵を見つけるのは宝くじをあてるより難しくなくなった」のは、この調査のおかげといってもよいのだろう。

本書は2005年の出版なので、今からだいたい10数年前ということになるが、その当時ですでに、 

 ウナギは日本全国の川や河口で生息しています。多くの人が住む都会を流れる川にもウナギはいます。しかし、その数は年々減ってきています。ひっそりと河川で生活するウナギは、私たちの気づかないうちに姿を消してしまうかもしれません。

 養殖ウナギのもとになっている天然のシラスウナギも、年々減少しつづけ、絶滅にむかっているのではと心配されています。

という状態だった。ウナギの産卵場所が解明された現在も、完全養殖が実用化されたわけではなく、依然絶滅危惧種に指定されたままだ。

海藻はふしぎの国の草や木』を読んだときもそうだったが、ふだん私たちが食べているものは生きものであるということ、生きものとしての生活があるということ、殺して加工したものがパック詰めで売られている状態では、こうしたことが意識にのぼることはほとんどない。もちろんいちいち考えていたら料理も買い物もできないけれど、新鮮かどうかなど食べる対象として見るだけではなく、たまには、どんなところで何を養分にどういう生活していたのかなあとちょっと考えてみるのも面白いことかもしれない。