こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

クサレケカビのクー(第256号)

同僚の人が以前こんな話をしていた。

娘がネイルしてるんだけどカビ生えちゃってね〜。爪が緑になってるのよ。でも懲りずに削ってまた新しいネイルするんだよねー。止めようって気はないらしいわー。

私はネイルをしたことがないので知らなかったが、グリーンネイルというらしい。原因は緑膿菌。爪カビとは言われるものの、緑膿菌自体はカビの仲間ではないようだ。

ざっくり言えば、カビと呼ばれるものは菌類だが、一方の緑膿菌真正細菌。何のこっちゃという感じになって来たが、「爪のカビ」という呼称に相応しいのは菌類である白癬が原因の爪白癬の方なのだ。だが、カンジダ白癬などの菌類(いわゆるカビ)に侵されて爪甲剥離症になると、それに伴って緑膿菌感染が起こることがあるというのだからややこしい。グリーンネイルは緑だからカビっぽく見えるけど、カビではない、でもカビが原因の病気でなることもある、とまあ恐らくこういうことだろう。おしゃれというのはいつの時代も、健康と引換えのものなのだろうか。

 

のっけから脱線してしまったが、この本の主人公こそ、タイトルにあるとおり「カビ」。しかもクーちゃんという可愛らしい名前がついている。

本文はカビの生えたバームクーヘンの写真と共に、こんなふうに始まる。

「うわ、やだあ。かびてる!いやんなっちゃう。カビなんて、この世から消えてなくなればいいのに!」

そうさけんだとたん、

「ひどーい!」

と声がした。それも、頭の上の方から。

 親指より小さな女の子が、ふわふわと空中に浮かんでいる。そんな、ばかな…

「あなた、だれ?」

「わたし、クサレケカビのクーです」

え?クサレ…何?カビっていった?

でも、わたしが聞くより先に、むこうが聞いた。

「カビのこと、きらいなの?」

「あたりまえじゃない」

「えー、なんで?」

「きたなくて気持ちわるいし、くさいし、体に毒だし」

思い浮かべるだけで、ぞっとしちゃう。

「そんなあ、あんなにきれいなのに…」

「きれい?」

わたしは耳をうたがった。

「うん。カビは、はなれて見てもきれいだし、」 

きれいでしょ?とばかりに、カビの生えたイチゴジャム、古新聞、チーズ、イチゴ、切りもち、カボチャの写真が目白押しだ。

お次のページは、

「近づいて見れば、なおさらきれい!」

との一言とともに、それぞれイチゴジャムのコウジカビ、古新聞のケタマカビ、チーズのクモノスカビ、イチゴのハイイロカビ、カボチャのカビ、の「どアップ写真」が登場するという案配だ。

本号は『ここにも、こけが… (たくさんのふしぎ傑作集) (第195号)』や『変形菌な人びと(第219号)』でおなじみの、越智典子氏&伊沢正名氏のペアに加え、塩田雅紀氏が絵を付けている。しかし、付録「ふしぎ新聞」の「作者のことば」ではどの方も文を書いていない。「監修者のことば」として、監修を担当した出川洋介氏が熱く語っていらっしゃる。

土を集めるために日本全国を旅して周りましたが、あるとき、頭に首飾りをつけたクサレケカビを見つけて、こんなにきれいなカビもいるのかと感激しました。研究を進めるうちに、この珍しいカビはダンゴムシが住んでいる土には普通に見つかることがわかりました。もしやと思い、実家の庭先の土も培養してみると、ちゃんといるではないですか!こんなに身近な所にいたのに気がつかなかったの?とクーちゃんに笑われそうです。

“クーちゃん”との出会いを表現するさまは、一目惚れした恋人を語るようだ。本文冒頭でクーちゃんが言う「きれい」とは、出川氏自身の気持ちだったわけだ。

クーちゃんが語るように、私たちの身のまわりはじつはカビだらけです。ぼくは、そう思うと楽しくてしかたがないのですが、お母さん方は少々困るかな?

お母さん方が本当に困ったであろうことは、本文最後に出てくる[ジャガイモでカビをそだてる方法]をやってみたい!と子供が言い出した時だろう。しかし、マッシュポテトの培地に洗っていない手を押し付け、カビで手形を作るという実験はなかなかお手頃。毎日写真を撮って観察記録でもつければ、夏休みの自由研究として打ってつけではなかろうか。裏表紙には「完成品」の写真があるが、さまざまなカビが醸し出す色づかいは現代美術と見紛うばかり。現物を学校に持ってったら先生はどんな顔をするだろうか?

 虫めがねひとつを手に、会おうという気持ちさえあれば、みなさんもクーちゃんたちに出会えるはずです。ぜひ、身近なカビたちと友だちになってください。

と言われましても……。私が友だちになりたいのは醸造酒などおいしいものを作ってくれる「カビ」だけ。真夏に常温で放置したカレーに生える奴や、梅雨時期に部屋干ししたバスタオルに取り付く奴では決してないのだ(一人暮らしの時にはこういう失敗があった)。ましてや水虫をや。