こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

パイロットが見た雲(第147号)

子供が図書館で、分光器をつくろうというイベントに参加してきた。

昨年も近隣大学で、分光器を作って実験する公開講座に参加しているが、分光器本体を用意された展開図を使って作るのに苦労していた。今年のはトイレットペーパーの芯を使うお手軽なもの。完成品を見ると不器用さがにじみ出た仕上がりだ。それでも、ほらほら見てみて!きれいでしょ!と、帰ってからもさまざまな光源に向けては熱心に覗き込んでいた。

この実験、分光シートと黒紙さえ用意すればお手軽にできるもの。

かんたん分光器を作ろう(分光シート編)|キヤノンサイエンスラボ・キッズ

家でやろうというには、子供自身のやってみたいという気持ちが必要かもしれない。もともと大した関心もないのだから、親主導では揉めること必至。本を見ながら親がする解説など聞いちゃいないだろう。皆でわいわい言いながら作って、先生が解説してくれて、「意味のある」実験もやってくれる。こういう至れり尽くせりのイベントだからこそ、素直に楽しめるのだろう。

そういえば以前、学習塾主催の理科実験教室で「光の三原色LEDキット」を作ったはず。これと分光器を組み合わせて実験して、まとめたらいい自由研究になるのではないか?

……と考えるのはあくまで私だけ。やる気がないのは火を見るよりも明らかだ。まあ鳥をテーマにすると自分で決めて、親のちょっとしたサポートはありつつも、曲がりなりとも自分の力で仕上げようとしているんだから、黙って見ているより他はない。親としては、ついつい出来映えとか、「先生受け」とか不純なことを考えてしまうけれど。

イベントが終わった頃迎えに行ったが、カーテンのすき間から会場をのぞくと、何やら本を読んでいる。図書館主催のイベントらしく、関連した本も合わせて紹介されているのだ。何読んでるのかな?と表紙を見れば「たくさんのふしぎ」っぽい。『虹をみつけに(第248号)』かなあと思ったが、表紙が違う。聞いてみたら『パイロットが見た雲』だった。

もちろん『虹をみつけに』もあった。『ふしぎなにじ』というしかけ絵本、学校の読み聞かせでも使っている『光の旅 かげの旅』、板倉先生が書いた『光のスペクトルと原子』まで、硬軟織り交ぜた本がリストアップされていた。

パイロットが見た「雲」なのに、虹とどういう関連が?と思ったが、28〜29ページの写真を見てわかった。ブロッケン現象が紹介されているのだ。考えてみれば、雲は水からできているし、虹も空気中に水がないと見られないのだから、当たり前かもしれない。もっとも、本文中にはブロッケン現象という言葉は出てきておらず、

 虹の輪にかこまれた飛行機の影。

 あの影は自分の操縦している飛行機の影だ。大きなシャボン玉につつまれて飛んでいるような気になる。

 これは太陽を背にして雲の上を飛ぶときによく見られる。 

さらっとした説明があるのみだ。

旅行で飛行機に乗ることがあるが、当然のことながら、パイロットと素人では雲を見る目が違うものだなあと思う。今回の夏休みも乗ったが、窓の外を見ても、きれい雲だなあとか、あの雲には乗れそうだなあとか呑気な感想が浮かぶだけ。夫が、ほらすごいかなとこ雲だよ、と指差す向こうにはかなり大きな雲が広がっている。積乱雲の一種であり近づいたら危険な雲であることはわかっているけど、同じ雲を見るパイロットは、ただ危険というだけではなく、さまざまなことを予測し状況判断をしているのだ。

 乗客を乗せているとき、ぼくたちパイロットは飛行機が大きくゆれないように、雲の形から空気の状態を判断しながら飛ぶ。たとえばたれさがった雲や、浪雲。こういう雲のあるところでは空気がうずをまいたり、激しく波うったりしている。この雲を見つけると、「ゆれるぞ」と思う。雲のようすからゆれぐあいを予測して、飛ぶコースや高さを変える。(本文より)

この本には鹿児島上空、もとい桜島上空付近を飛んでいるときの様子も写されていて、

 火山から出る噴煙は、ちょっと見たところ雲に似ている。しかし雲とちがって噴煙の中の火山灰が飛行機のエンジンを悪くしてしまうことがある。

 噴煙の中に入らないように、飛行コースをとる。

と書かれている。

この号が出たのは1997年。鹿児島地方気象台”桜島の月別爆発回数”を見ると、出版前からさかのぼって20年あまり、まあまあ活動が活発だったことがわかる。私たちが鹿児島にいたころもかなり活発な時期で、来たちょうど翌年(子供が生まれた翌年でもある)から、それこそ爆発的に噴火回数が増えていっている。当時はこれが普通だと思っていたけれど、「普通」ではなかったわけだ。結局鹿児島を去るまで続いたので、近年でいちばん爆発回数が多い時期に居合わせたことになる。

作者の名前でちょっと調べてみると、

www.traicy.com

という記事が見つかった。ウォーターアーチで歓迎される機体の写真には、奇しくも虹が写っている。キャプションに「中部発NH307便の747里帰りフライトで機長を務めた佐藤正雄キャプテン」と書かれた人物こそ、本号の作者その人だ。1949年生まれだから、現在御年68か69歳になられているだろう。すでにパイロットを引退されているだろうか。