こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

一枚の布を ぐるぐるぐる(第285号)

すてきなタータンチェック(第402号)』にも書かれているが、「タータン柄のスカート」はもともと男性用衣装だった。キルトと呼ばれるスコットランドの民族衣装だ。下着をつけず、つまりノーパンで着るものだった。キルトの元になったのは、Belted plaid(ベルトで締めるプレード)。タータンの生まれ故郷であるハイランド地方では、これが正装であり軍服でもあった。

プレードは一枚布で出来ている。「一枚の布をぐるぐるぐる」して着るものなのだ。『タータンチェック』では、プレードの着方の図解とともに、

広げると、2メートル×4メートルくらいの一枚の大きな布になる。当時は羊の毛を刈り、洗い、干し、撚って糸にし、さらに織りあげるまでには、たいへんな時間と労力がかかった。布地はとても貴重だった。ハイランド地方は寒いため、暖かい羊毛の衣服は、ときに毛布の役割、ときには傘の役割をはたした。(『すてきなタータンチェック』より)

と解説が付けられている。

当時プレードは男性だけではなく、女性も身につけていた。

本号『一枚の布を ぐるぐるぐる』では、

男の人の服と女の人の服が、ちがうように見えますが、着かたはまったく同じです。腰から下の布をながくするかみじかくするか、腰から上の布をどうするか、たったそれだけで、優雅にも活動的にも。どう着るかは、気分とお好みしだいです。(『一枚の布を ぐるぐるぐる』より)

と紹介されている。

ファストファッション全盛の今、衣服は使い捨てのように扱われているが、布地が貴重だった時代、「一枚布」の衣服が主流だった。たとえば着物。これは一枚布で着るものではないが、一反の布から長方形を無駄なく取って作られている。本書でも図解されているが、解いて並べ直せば見事に一枚の布になるのだ。

一枚布は汎用性が高い。帯も一枚布だが、結び方は数えきれないくらいある。手拭も一枚布。こちらも使い方は無限だ。用をなさなくなっても、別の用に使われる。仕立て直したり、おむつになったり、雑巾に下ろされたり。火にくべた後の灰は肥料だ。最後まで無駄にならない

世界を見れば、ターバンだって、クーフィーヤだって一枚の布。「帽子」だけではない。サリーを始め一枚布の「民族衣装」も数多くある。本書にはありとあらゆる場所の衣服が紹介されているが、着方やデザインもさまざま、とても一枚の布からできているとは思えないものばかりだ。

「作者のことば」では次のように書かれている。

 布というのは、たいてい正方形や長方形です。でもそれを着る私たち人間は、指一本見ても腕も足も体全体も、だいたいが円柱形でできています。円柱形をした私たちに布をぐるぐる巻いて服に仕上げるというのは、なんと理にかなったことなんでしょう!

一枚布を着けるのは、まさに、人間という生きものは円柱形であることを実感させてくれるのだ。