こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

病院の子どもたち チャイルド・ライフ・スペシャリストのしごと(第407号)

家庭教師の仕事をしていた頃、病院に教えに行ったことがある。入試を間近に控えた中学生だった。何で入院していたのかはわからないが、特にしんどそうな様子は見られなかったので、重篤な状態ではなかったのだと思う。ほんの数日だけの指導でどうにかなるものではない。受験目前ということで、わからないところなど聞いて安心しておきたかったのだろう。私が教えることはほとんどなかった。

私がした仕事は、手助けというほどでもない小さなものだったが、本書で紹介されている「チャイルド・ライフ・スペシャリスト」は、病気の子供を勇気づける大切な役割を担っている。

勇気づける、と言ってもただ頑張れと応援するだけではない。名前にあるとおりスペシャリスト、すなわち専門家なのだ。子供たちができるだけ安心して治療を受けられるように、できるだけ楽しい入院生活になるように、さまざまな知識や経験を駆使してサポートする仕事なのだ。

病気の子供たちのサポートというなら、医師や看護師もいるし、家族だって立派な支えになっているのではないか?もちろん、チャイルド・ライフ・スペシャリストがまだまだ少ない今、医師や看護師がその役目を果たしている部分はある。家族、とくに親の支えというのは子供にとって大きなものであることに変わりはない。

しかし、医師や看護師というのは医療の専門家であり、子供の“生活”についてのサポートまで手が回らないことも多い。子供は病気で入院しているけれども、同時にそこで生活する一人の人間でもあるのだ。「病気の子供」ではなく、一人の子供として生きる、それを支えるのがチャイルド・ライフ・スペシャリストの仕事なのだ。

そして家族は、親は子供の病気のためにさまざまな影響を受けざるを得ない。「心配は猫をも殺す」とは言われることだが、たとえば本書で紹介されている総太郎くんの母親は、彼の発病の数年後、自らも病気になってしまった。総太郎くんの11歳の誕生日には誰も面会に来られなかった。病院でひとりで迎える誕生日。そんな時に支えてくれる人たちがいるというのは、すごく幸せ、とまではいかないまでも、どんなにか勇気づけられることだろうか。

このようにチャイルド・ライフ・スペシャリストというのは、子供を応援するだけではなく、子供を応援することによって、医師や看護師の仕事を助け、家族のサポートまでも担っているのだ。

この本に出てくる子供たちのエピソードは、一人の親としては、ともすれば涙なしでは読めないものだと思われる。確かに子供たちの気持ちを慮ると、胸が張り裂けそうな思いにもなる。しかし子供たちは強い。病気でも強い。苦しみや痛みや悲しみを乗り越える力をちゃんと持っているのだ。ちょっとしたサポートがあれば、自分の力で立ち上がることができる。そのちょっとした力、チャイルド・ライフ・スペシャリストが、多くの子供たちを支えてくれるようになることを願って止まない。