こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

さくら 私のスケッチブックから(第312号)

花といえば桜。今年もお花見のシーズンがやってくる。

子供の写真を見返してみたら、呆れるほど毎年のように桜をバックにした写真がある。これほど愛されている花なのに、一度としてじっくり見たことがない。いつもいつも早くお花見行かなきゃ、早くしないと散ってしまう、ああ今週末は雨なのか……みたいな急く気持ちばかりが前に出る。「花を愛でる」ことには、気持ちの焦点が合っていない。

花を愛でるということなら、梅の方がよほどしっかり見られている。梅園をのんびり歩きながら、一つ一つの木をじっくり鑑賞する。肌寒い時期なので歩くほかはないし、ビールの出番もない。

お花見は準備も忙しない。子供と二人でも、家族三人でも、はたまた友人たちとでも。やれ弁当だ、酒だ、ジュースとお菓子も入れなきゃ。シートを忘れないで!遊び道具も準備して……。

お花見会場にたどりつけば、人びとであふれかえって、騒がしいことこの上ない。自分たちもいそいそとシートを敷いて、宴会の準備をして……とその間にも、子供たちは花そっちのけで遊び場に飛び出してゆく。頭上はうるさいばかりにこれでもか、と咲き誇るソメイヨシノ

桜の中でもソメイヨシノばかりがなぜこれほど愛されるのか。それは春の気持ちのざわめき、宴のさわがしさの背景にぴったりの花だからだと思う。急がなきゃと逸る気持ちの元は、桜の花そのものにあるのかもしれない。

この本の作者にとっての「お花見」とは、染井吉野ではなく、向こう山に咲くヤマザクラを見ることだったという。こういう人でないと、桜そのものをしっかりと「見る」ことはできないのだろう。

わが家の方は今年もまた、せかせかと準備して出かけ、桜を背景に、去年より少し大きくなった子供の写真を撮ることになるはずだ。

月刊 たくさんのふしぎ 2011年 03月号 [雑誌]

月刊 たくさんのふしぎ 2011年 03月号 [雑誌]