こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

コアジサシ ふるさとをなくした渡り鳥(第266号)

“ふるさと”というのは、日本にある「営巣地」。

コアジサシは春、日本に渡ってきて繁殖期をむかえ、子育てをするのだ。

著者は野鳥調査をする中で、子育て中とおぼしきコアジサシたちが、不自然な方向に飛び去っていくのを目撃する。追って捜索してみると、なんと水再生センターのコンクリートの屋上で子育てしていたのだ。コアジサシがヒナを育てるのに適した場所は「裸地と呼ばれる草木の生えていない、広びろとした玉砂利の川原や砂浜」。それが開発によって失われたため、こんなところでも子育てするようになってしまったのだ。

私なら、何てたくましい!と感心しただけで終わってしまうが、作者は違う。

ぼくは東京都と大田区に「卵が飛ばされないよう砂利を敷いてほしい」という要望書を提出する一方、マスコミにも情報を流した。(中略)その後、東京都と大田区と自然保護の仲間たちとの話し合いがもたれ、来年コアジサシがくる前に、ためしに約2ヘクタールを整備して、ようすを見ることになった。 

コアジサシの危機を察し、すぐに行動に出るのだ。

作業は、2002年3月16日からと決まり、そのときからぼくらは“リトルターン・プロジェクト”として、活動を開始した。 

リトルターン、というのはコアジサシの英名。

今号の英題も、

"Little TernーThe Migrant Birds That Lost the Place to Return"

Little TernとReturnが韻を踏んでいるみたいで面白い。

試行錯誤を重ねた結果、コアジサシたちはその年、改良された水再生センターの屋上で、多いときは2000羽くらいの大集団で子育てをおこなうことになった。

2002年6月29日、ヒナや卵や巣の数を調べた調査では、巣の数503巣、卵の数984個、ヒナにならなかった卵79個、ヒナの数350羽、死んだヒナ80羽、コアジサシの数約1100羽。昨年、コンクリの屋上で巣立った数は5羽、格段の進歩である!

 

この活動は今なお続けられている。

Little Tern Project 公式:リトルターン・プロジェクト- Save the Little Tern.

最近の日記によると、“今年のコアジサシも順調に数を増やしています”ということだ。

昨日の森ヶ崎 - NPO法人リトルターン・プロジェクト

本号の最後には、

水再生センターの屋上が、コアジサシにとってほんとうのふるさとになるのは、いつのことだろう。

と書かれている。今や「ほんとうのふるさと」になっていることがわかる。地道な活動を続けてこられた方々の熱意に頭が下がる思いだ。

月刊 たくさんのふしぎ 2007年 05月号 [雑誌]

月刊 たくさんのふしぎ 2007年 05月号 [雑誌]

  • 発売日: 2007/04/02
  • メディア: 雑誌