こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

電子の虫めがね(第184号)

「電子の虫めがね」とは、電子顕微鏡のこと。

虫めがねという言葉は、拡大鏡の意味だけではない。撮影対象が虫であるという、二重の意味がかけられているのだ。

そもそも虫眼鏡とは?虫を見るために作られたものなのか?語源をネットで調べてみたら、確かにそういう例も出ていたが、「虫のように小さなものを見るため」の説もあり、相撲番付表で序の口の力士が虫のように小さな字で書かれていたからという例もあったりで、結局のところはっきりしなかった。

本書の写真は、電子顕微鏡の中でも走査型電子顕微鏡を使って撮影したものだ。こう書くと、電子顕微鏡について何か知っているかような口ぶりだが、「作者のことば」で西永奨氏もおっしゃるとおり「じつのところは私にもよくわかりません」。

科学館などで、フツーの顕微鏡を使って植物や虫の観察をしたことがあるが、そんな程度の拡大でも、違う世界が見えてくるから面白い。ハチの翅の模様ってこんなに繊細なんだ!とか、生き物のからだの美しさにいたく感嘆することになる。子供のころすごく顕微鏡が欲しかったけど、高そうなので親には言い出せなかった。今やこんなに手軽な顕微鏡が手に入るんだから便利になったものである。

虫嫌いには手強い写真の数々だが、全容が見えるわけじゃないので案外見られると思う。たかだか虫のからだに、こんな緻密で繊細なものが備わってるなんて、感動すら覚えるかもしれない。蚊の体毛とかオキーフもかくやという花びらのような形、知らないで見せられれば植物の何かとでも答えそうな代物だ。

しかしながら「作者のことば」で、西永氏はあえてこんなことを言っている。 

 この本では、おもに私たちの身近にいる昆虫たちを走査電子顕微鏡によって写してみましたが、昆虫たち、および、それらが生きている世界ともいえる自然界のおどろきやふしぎといったものは、電子顕微鏡のような、とてつもなく大きな機械を使わなくても、足もとの地面やテーブルの上の花びんの花をじっくり見るだけでじゅうぶんに感じとれます。 

以前「驚きの明治工藝」展を訪れたことがあるが、自在置物の緻密さ精巧さに驚かされたものだ。これもひとえに観察の賜物だろう。生き物のからだの動きを、人工素材を用いて表現する技術の高さはそれとして、優れた観察眼と根気が要ったであろうことは想像に難くない。今や3Dプリンターが登場して、ものづくりのハードルは下がりつつあるが、技術の進歩は自然が作り出す美しさに果たして追いつけるだろうか?