本書の英題は、"The Water Tells his First Trip into the Elm Tree"。
主人公の「水」が、ニレの木の中を旅するという態で作られたお話だ。水を擬人化してつくられた科学絵本といえば、名作『しずくのぼうけん』 がある。中学年の読み聞かせでよく使っているが、独特のリズム感が気持ちよい反面、手書き風のフォントが読み取りづらくて練習を要する、読み手泣かせの絵本だ。
『ニレの中をはじめて旅した水の話』、そして『しずくのぼうけん』もそうだが、読者に水に関する科学的知識があるのとないのとでは、物語の見え方がまるで違う。毛細管現象の様子かなとか、水の凝集力のことを描いているなとか、これは蒸散のことだなと、いちいち理科用語が思い浮かんでしまうのは、私が少しばかり知識を入れている大人だからだろう。
しかしながら、本書の真骨頂は、科学的知識に裏打ちされたお話である以上に、文学的な側面を併せもつところにある。蒸散だの毛細管現象だのを知らなくても、一つの冒険物語として楽しく読むことができるのだ。トメク・ボガツキの手による幻想的な絵が素晴らしくマッチしていて、自分もニレの木の中を旅している気分になれる。物語自体もさることながら、表紙のタイトル文字の配置から裏表紙の絵まで、すみずみまで気を配って創られている、本当に素敵な絵本だ。

- 作者: 越智典子
- 出版社/メーカー: 福音館書店
- 発売日: 1998/04/01
- メディア: 単行本
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