かぼちゃ?人類学?はてさて何のことやら……と思うのも無理はないタイトルだ。
『迷宮へどうぞ (たくさんのふしぎ傑作集) (第46号)』で挿絵を担当した人物こそ、著者の川原田徹氏だ。『迷宮へどうぞ』には、“『かぼちゃ島』迷宮”という絵があり、カボチャの形をした島の内部に、蟻の巣のようにいろいろな部屋があって、人々が暮らしている様子が描かれている。これはその「かぼちゃ島」をさらに詳しく解説した、さしづめ“かぼちゃ島ガイドブック”ともいえる本だ。と思ったら、最後のページにはちゃんと「かぼちゃ島観光案内」が載っていた。
かぼちゃ島は一種のユートピアだ。
たとえば銀行はこんな具合。
健康にあふれている人は、幸福相互銀行に健康をあずける。心のしあわせにあふれている人は、しあわせをあずける。お金のあまっている人は、お金をあずける。健康にめぐまれない人は、健康をひきだす。お金のたりない人は、お金をひきだす。幸福相互銀行では、身福と心福と金福は、1:2:10の割合で交換できる。かぼちゃ人は、体と心とお金の3つのものさしでねうちをはかるのである。
学校はこんな感じ。
かぼちゃ島の学校は、町のなかにとけこんでいる。校庭を、買い物のおくさんや牛乳配達のおじさんが、通りぬけていく。校舎のなかに、おみせや住宅もある。
やおやのおじさんや大工さんが、先生になって、商売のことや、大工仕事をおしえてくれる。
子どもたちは、町のなかで、町じゅうの人を先生に、たくさんのことをまなぶのである。
しかし、ユートピアという言葉に、そしてかぼちゃ島の有り様に、何となくざわざわした気持ちを呼び起こされてしまうのはなぜだろう?理想郷の単なる空想とするには、あまりにも不穏な空気を醸し出している。
ぼくは、かぼちゃ島のかぼちゃ人である。かぼちゃ人は、のろまで、とんまだといわれるが、ほんとに、のろまでとんまなのである。
と自称するかぼちゃ人が空恐ろしい。何か読めば読むほど、考えれば考えるほど、かぼちゃ島に取り込まれていきそうになる。かぼちゃ島をどうとらえるかによって、その人の考えや気質までもが露になりそうな、そんな奥深さを秘めた絵本だ。
『迷宮へどうぞ』の「今月号の作者」の紹介欄には「来年あたり、福音館書店から、「かぼちゃ暦」という、おもしろい絵本がでるかもしれない」と書かれていたので、合わせて『かぼちゃごよみ』も読んでみた。
これがまた珍奇な書で、ヒエロニムス・ボスもかくやという奇天烈な絵に、谷川俊太郎のパンチ力のある詩が合わさって、どう表現して良いものやらわからない、ものすごい作品に仕上がっている。暦というくらいなので、1月から始まって12月まで、12枚の絵と12篇の詩で構成されているが、絵も詩も1月、2月くらいは平穏さをかろうじて保っている(それでもところどころ散りばめられたドラえもんがおかしな雰囲気だ)のに、8月くらいから一気にエンジンがかかって、最後の12月で頂点をみる。好事家の私が欲しがっても不思議はないくらいの絵本だが、なぜか全然欲しいという気持ちにならないのが不思議なところだ。
ご本人は、カボチャの「独立国」を作っておられるようで、記事では「眺めるうちに懐かしさと温かみを覚え、楽しく穏やかな気持ちになれる。」と書かれているが、この2冊を読んだ後だと、本当かあ?という気分になってしまう。私の心持ちの問題だろうか?門司には幾度か観光などで訪れたことがあるが、この美術館を寡聞にして知らなかったのは残念に思った。
九州にカボチャの「独立国」を作ってしまった、72歳の数奇な画家人生

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