一緒に行こうよ"こくわ"の実 また採ってね
ーDREAMS COME TRUE「晴れたらいいね」より
野山のごちそう……といえば、動物植物キノコなど、いろいろなものが思い浮かぶ。
英題にあるのは"Wild Fruits and Nuts"。だから『あったよ! 野山のごちそう』は、木の実類を紹介した絵本となる。
ドリカムの「晴れたらいいね」にある、“こくわ”は、サルナシの実として本書にも登場する。ウィキペディアには「温暖地では、概ね標高600m以上の山岳地帯に自生する」とあるが、冒頭、
山へ行こう 次の日曜 昔みたいに
雨が降れば 川底に沈む橋越えて
と歌われる「山」は、割と高めの山(高尾山の標高は599m)ということになる。
とはいえ「晴れたらいいね」は、がっつりな山登りという雰囲気でもない。吉田美和は北海道出身、道内なら高所でなくとも、サルナシが自生するかなあ?「雨が降れば川底に沈む橋」は沈下橋のことだろうが、これは徳島・高知あたりが有名だしなあ……
と調べるうちに、「山」は出身地池田町にあるフンベ山、「橋」はかつて沈下橋だった川合橋だろうということがわかった。フンベ山の標高は170m、これなら「晴れたらいいね」から連想する“ちょっとしたハイキング”のイメージにぴったりだ。
コクワこそ採ったことはないが、山に行った時、その辺に生っている実をちょっと摘んだりすることがある。すごくおいしいというわけではないが、じわっと広がる酸味が、疲れた身体にほどよい味だ。
しかしながら「野山のごちそう」の味わいで実感するのは、実のところ「栽培種のありがたみ」の方だ。
最後の方にも書かれているが、
どんなにおいしそうに見えても毒をもっている実もあるよ。
どんな実でも、はじめはよく知っている人に教えてもらって口に入れよう。
有毒無毒の区別がつかないと、食中毒を起こすことになる。つい最近も、
長雨で毒キノコが大繁殖!名古屋の公園のキノコ食べ男性3人が食中毒: J-CAST テレビウォッチ
のような事故もあった。誤食による食中毒事故は、毎年のように報告されている。
そればかりではない。
おいしく食べられるようになった実は、当然、野山の動物たちも好む。クマなどに遭遇する危険とも隣り合わせだ。タケノコ狩り、山菜採りなど、動物たちが生きる山に入り、同じく食料となるものを採る。楽しい反面、危険を伴うことなのだ。
野生の実というのは、コストパフォーマンスが非常に悪い。殻が硬すぎて割るのが大変だったり、その割に可食部が少なかったりする。以前野生の栗を拾ってみたことがあるが、虫食いが多く、とても食べられるものではなかった。ほかにも渋みがあったり、食感が悪かったり。本書にもちらほら書かれているが、おいしい食べごろの実なんて、虫などの先客にとっくに集られ済みなのだ。
狩猟採集生活をしていたころの人間は、それこそ、
植物も動物も、生きるための知恵くらべだ。
という、知恵くらべのまっただ中で暮らしていた。
食べられる実を選り分け(有毒無毒の区別)、食べごろを見極め(未成熟は有毒の実もある)、食べる工夫(アク抜きなど)をする。品種改良を重ね、可食部が多く食味に優れた実を作り上げる。
長年の、人びとの知識・経験・試行錯誤の積み重ねの上に、今、私が享受している豊かな食卓があるのだ。