こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

ナミブ砂海 世界でいちばん美しい砂漠(第374号)

私は、読み聞かせボランティアをしているくせに、絵本の良い読み手ではない。練習でも字を読むことに集中してしまって、絵を見ていないことがよくある。先日も『ぞうからかうぞ』を練習していて、これは「ゾウから買うぞ」だとばかり思って読んでいたら、「ゾウからかうぞ」だということに、聞いていた子供に絵の様子を指摘されて初めて気がついた。子供は絵をよく見ている。そもそも表紙にも、ちゃんと「ゾウがからかわれている絵」があるではないか。以前受講した読み聞かせ講習会で講師の先生は、「絵本は文章と絵、どちらが欠けても成立しません。優れた絵本は文章だけではなく、絵にも気を配って作られています。練習の時は、絵もよく見て読み方を研究してください」と当たり前のことを指導してくださっていたが、まったく生かされていないのだった。

そんな私だけれども「たくさんのふしぎ」は、絵の方も楽しみにして読んでいる。デザインの違いもそれぞれあって面白い。文章を読みながら、自然と絵にも目が向いていることに気がつく。多くの号は「絵」で作られているように思うが、中にはやはり、写真の方が圧倒的に伝わってくる内容のものもある。『ナミブ砂海』もその1冊だ。その写真は、まさに副題の「世界でいちばん美しい砂漠」の名に恥じない美しさだ。

「作者のことば」では、本文中に掲載されている、ナミブ=ナウクルフト国立公園内の「デッドフレイ」と呼ばれる場所で撮った"現代絵画のようなナミブ砂漠の写真"についての顛末が語られている。つまり作者は、"奇跡的な一瞬の体験"を通して撮られたこの写真を、世界初の自分だけの写真だと思っていたが、実はそれ以前に自然写真家のフランス・ランティングによって撮影されておりナショナル・ジオグラフィック」の2011年 06月号に掲載されていたことを知るのだ。

そこで、ちょっとした好奇心からナショジオの該当号を取り寄せて、写真を比べてみたが、驚いたのは木のシルエットがほとんど変わっていないこと。野村氏がこれを撮ったのは2012年5月、ランティング氏が撮ったのはいつ頃なのか定かでないが、同じ5月辺り(この写真の撮影は朝日の射す角度が関係しているので)だとするならば、少なくとも2010年には撮影されていたと思われる。もちろん本文中に書かれている、

デッドフレイの木は800年から1000年くらいまえに枯れたアカシアの木だということです。水が集まってくるソススフレイとは対照的に、デッドフレイはあまりに乾燥しているため、バクテリアすら生きられないので、木が腐ることなく何百年も立ちつづけているというのです。(本文より)

ということを鑑みれば、木のシルエットー枝の付きぶりや様子が、ほとんど変わらないのは驚くべきことではないのかもしれない。しかし、こうして比べられるということは、構図つまり対象の木々自体も両者はほとんど変わらないということで、こちらもまた驚きである。

しかし、ランティング氏が、

『ナショナル ジオグラフィック』誌の写真家は、綿密に計画を練ります。現地に足を踏み入れる前に、特定の場所を選んでおくことも多いんですよ。今回、ランティングには幸運にも妻のクリスティン・エクストロムがついていて、調査や必要な物の準備を手伝ってくれました。私たちが記事を作るときにいつも重要となるのは、写真家に現地の状況を調査するための十分な時間をとってもらうこと。光が当たるのはどの場所か、一般の人たちはどの時間帯にそこを訪れるのか、起こりうる問題は何かなどといった点を事前に把握してもらうのです。そうすることで、もっとも理想的な時間にその場所を訪れることができるのです。(「「写真? それとも絵?」“ナミブの砂丘”はこうして撮った」より) 

という状況で撮影したのとは対照的に、野村氏の写真は、

なにかの予感につきうごかされて、僕はザックから500ミリの望遠レンズを取りだし、カメラに装着、ピントを合わせると、死の世界は一変、見事な一枚の絵が出現しました。(本文より)

という偶然が与えてくれたチャンスによって撮られたものなのだ。

無論、どのようなプロセスを経たものであろうとも、写真は写真、撮られたものがすべてである。野村氏もランティング氏も「自然写真家」として撮影を生業としている、どちらもプロなのだから。

しかし乱暴を言えば、この本『ナミブ砂海』の価値は写真にあるのではない。日の出前の"死の世界"から、夜明けを告げる真っ赤な朝焼け、そして絵のようなデッドフレイの風景が出現し、それが一瞬にして消えていくまでの、時間にすればほんの短い間の出来事、その"奇跡的な一瞬の体験"が描かれているからこそ、添えられた写真の輝きが増すのだと思う。セレンディピティは誰にでも訪れるということを教えてくれるのだ。

 

最近月刊誌を楽しみに待つというのは「たくさんのふしぎ」くらいになってしまっているが、ナショジオは今年1年「鳥」をテーマにした記事を特集するらしいので、こちらも子供の『BIRDER』とともに、毎月楽しみに読もうと思っている。