本号は、
という一文から始まる。
コスタリカと聞いて思い出したのが「水曜どうでしょう」の「中米・コスタリカで幻の鳥を激写する!」という企画。鳥関連には目ざとい子供がTOKYO MXで放送しているのを見つけ、ゲラゲラ笑いながらこのシリーズだけ熱心に見ていた。
……と思ったら「作者のことば」によると、そもそもコスタリカに行ったのは熱帯の野鳥を見ることが目的だったようだ。それがいきなりバシリスクの見事な水上走りを見て、鳥そっちのけで追っかけることになったという。
作者の嶋田忠氏は、もともと鳥類を中心に撮影を続ける写真家。著作の一つ、新日本出版社から出ている「ネイチャーフォトストーリー 日本の野鳥」シリーズは、野鳥にあまり興味のない子にも、家のように野鳥好きの子供にも、ちょうどいい感じの写真絵本だ。
“野鳥から爬虫類へ”と題された「作者のことば」には、
高校一年生の時に、野鳥を写したくて写真を始め、それからずーっと野鳥を中心に撮影してきましたが、このバシリスクとの出会い以来、海外のどこへ行っても、野鳥だけでなく、爬虫類やほかの生きものたちにも興味がむくようになりました。
と書かれている。この時、実に40代後半にさしかかるところ。プロとはいえ、長年の撮影対象を置いて新たな生き物を追いかけるのはなかなかできることではない。素早く動き回る鳥と比べれば、爬虫類などほとんど止まっているようなものだ。しかし難しいのはやはり、野鳥と同じく「見つけること」。
本文でも、
観察をはじめたころは、見つけるのにひと苦労で、知らずに近づいてしまい、逃げられてはじめて気づくことのくりかえしでした。
と書かれている。警戒心の強いバシリスクは15メートルほどの距離まで近づいただけでも、すぐに逃げてしまうのだ。
止まっているに等しいと書いてしまったが、実のところ、バシリスクが水の上を走る速さはすごいスピードなのだ。現地で「キリストトカゲ」と呼ばれるバシリスクは、荒れた湖上を歩いて弟子たちのところへ向かったという“神の子”とは異なり、われわれと同じく重力の影響を受ける。沈まずに水上を渡るには、それなりの速さが必要になる。
その速さときたら、
1秒間に10枚も写すことができるカメラで撮影したのに、1メートルほどの距離を走る間に、たった3枚しか写っていません。
というくらいのもの。アメリカの研究者の実験データによると「体重80キログラムの人が時速106キロメートルで走りぬける速さに相当する」らしい。まさに"Jesus Christ !"だ。
「作者のことば」によると、最近の関心事は、ボルネオ島にすむトビヘビ、トビトカゲにトビヤモリなどの「飛ぶ爬虫類」ということ。対象が爬虫類に広がったとはいえ、野鳥好きの本筋からは逃れられないのだろうか。