こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

大草原のノネコ母さん (たくさんのふしぎ傑作集)(第130号)

今週のお題「ねこ」にちなんで、『大草原のノネコ母さん』を取り上げる。

私は子供の頃から大のネコ好きだ。しかし、転勤暮らしなので飼うことはできない。そのかわり、猫の日めくりカレンダー"365 Cats Page-A-Day Calendar"を買って、毎日めくっては和んでいる。

著者の伊澤雅子氏は、奥付の<作者紹介>によると「イリオモテヤマネコツシマヤマネコ、沖縄の動物などの野外調査を現在も継続中」。ネコ科動物の生態を研究している先生だ。『家にいたイリオモテヤマネコ(第351号)』で、ヤマネコの餌メニューについてリンクを張ったところこそ、伊澤先生による研究報告のページだ。

『ノネコ母さん』は、オーストラリアに住む鳥の研究者から「オーストラリアには、人の近くではなく森や草原や砂漠にすんでいるノネコ(ノラネコ)もいる」という話を聞いて、調査に出かける話である。オーストラリアにはもともとネコ科の動物はすんでいない。今いるネコたちはヨーロッパから連れてこられた、いわば“外来種”だ。そのネコたちの子孫が、ノネコとなって草原や森林や砂漠にすむようになった。だからもともとは「うちのまわりにいるネコ」や、猫めくりカレンダーに写るネコたちと同類なのだ。

調査するフィールドに着いた伊澤先生は、

 荷物の整理もしなくてはいけないし、買いこんだ食料もしまわなくてはならない。でも何はさておき、ネコに会いたい。西も東もわからないけれどとにかく外に出かけていきました。

ということで、あふれる好奇心、そしてネコへの愛を抑え切れず、鉄砲玉のように飛び出していく様子が何とも楽しい。

イリオモテヤマネコのときと同じように、糞を調べてエサをどのくらい食べるのか調べる様子も書かれている。糞を集めた後、水で洗って未消化の獲物の毛や骨を取り出し、何をどれくらい食べているのか判別するらしい。

観察の手助けとなるのが、電波発信器。罠でネコをつかまえ首輪型の発信器を装着する。23頭のネコに取り付けられ、観察対象として野に放される。しかし、ネコはワレン(地中にあるアナウサギの巣)に籠ったきり、なかなか出てこないことも。日が沈むまで観察を続けても出てこなかった夜、

 その晩夢を見ました。わたしが小さくなってウサギのワレンに入っていく夢……

と願望そのままの夢を見る先生。親しみやすい口調で研究調査の様子を語るだけでなく、その時の自分の気持ちなどを率直に表しているところが、ネコのように柔らかで温かい雰囲気を醸し出している。

最後は、

今がいちばん楽しそう。でも今のくらしがダメになっても、かわってしまっても、またつぎのいちばんをすぐみつけることができるのがネコなのでしょう。

と締めくくられていて、いろいろな場所に移動して生きる私も、斯くありたし、と思う。もっとも、ネコと違って自分では行く場所を決められないのが難点であるが……。

大草原のノネコ母さん (たくさんのふしぎ傑作集)

大草原のノネコ母さん (たくさんのふしぎ傑作集)