こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

なんだかうれしい(第193号)

先日見た「小さな旅」は、大崎下島だった。

大崎下島大崎上島も)は、中国地方に住んでいた頃、訪れたことがある。ここはレモンの産地。段々畑にレモンの木が一面に植えられている。斜面が広がる地形は、海からの照り返しもふりそそぐ。太陽の光をたっぷり浴びたおいしいレモンができるそうだ。島の女性はレモンを味わうだけではない。葉っぱを使って、布を染めたりもする。刻んでゆでて、そのお湯に布をひたすと……それはそれは美しいレモン色に染まるのだ。あ、『草や木のまじゅつ』だ、となんだかわからないけどうれしくなった。 

『なんだかうれしい』はふしぎな本だ。ページをめくるたび、ほんのりあったかくなってきて、ちょっとしたパワーがわいてくる。ひとつひとつの「うれしい」は、ちょこっとしたものなのだけれど、心がぐぐぐっと動かされるのがわかる。読んでいると本当に、なんだかわからないけど、うれしくなってくるのだ。頭ではなく、直接心にびんびん来る。説明してしまうとつまらなくなってしまうような、そんな小さなものだけれど、どれもこれもすごくいい。

単行本の『なんだかうれしい』は、月刊誌のものを改訂・増補しているが、どちらも良くてどちらも捨てがたい。単行本はシンプルにまとめられてパッと伝わるけれど、月刊誌のごちゃっと雑多な感じも素敵だ。 単行本を読めば、月刊誌に表れる子供らしい素直さが恋しくなるし、月刊誌を読めば、単行本の少し大人っぽく整えられたところを見たくなる。それぞれ違った良さがあり、それぞれに読みたくなる。

この本は、谷川俊太郎はじめ、さまざまな画家、イラストレーター、写真家たちが絵や写真、イラストなどを寄せて作られている。「誰が作ったのか」というのはどうでもいいことだ。谷川俊太郎が作ったからとか、元永定正が描いているからとか、「たくさんのふしぎ」だからとか……定まった評価というものを軽視するわけではないけれど、この本に限ってはどうでもいいことなのだ。こんなに素直に、子供のような気持ちで味わえる本というのはなかなかない。 

惜しむらくは、月刊誌はともかく、単行本の方も手に入りにくいということ。素敵な絵本なので、ぜひ再販してほしいものだ。

なんだかうれしい

なんだかうれしい