子供が『ひと・どうぶつ行動観察じてん (たくさんのふしぎ傑作集)(第120号)』の月刊誌バージョンを見たがっていたので、図書館で取り寄せてみた。内容は変わらなかったが「ふしぎ新聞」がなかなか面白かった。
「みみずの学校」では、校腸が冒頭あいさつで、
じつは校腸にも一人、元気な夫がいるのだ。この人、雪国の生まれでさ。一年生のとき、「雪がとけたら何になる?」というテストで、「春になる」と答えたらペケされて、もっとよく考えましょうと言われたんだって。正解は「水になる」らしいけど、今でも彼は「春も正解だ」とがんばっている。
と素敵エピソードを披露すれば、『かんたんレストラン 世界のおやつ(第122号)』の取材記が掲載されていたり。
おたよりコーナーには、
★「おおきなポケット」は創刊号から、「たくさんのふしぎ」はその少し前からずっと購入していて、気づいたらずいぶんな量になってきました。ゆかがぬけそう!もう来月からとるのをやめとこ、と言いつつ、結局毎月買っています。だって、おもしろいんですもの!物価上昇の時節ですが、どうかまだまだ今の値段でがんばってください。
と大阪からけなげなお便りが届いていたが、その返事はといえば、
☆4月号から680円になるんです。ごめんなさい。
と無情の一言。
なかでも興味深かったのは「来年度(1995年度)の刊行予定」のお知らせ。
4月号 | 皮をぬいで大きくなる |
5月号 | かんたんレストラン 世界のおやつ |
6月号 | ノイバラとむしたち |
7月号 | わたしが外人だったころ |
8月号 | 海はもうひとつの宇宙 |
9月号 | ぼくは盆栽 |
10月号 | ほら、きのこが… |
11月号 | 水中さつえい大作戦 |
12月号 | みらくるミルク |
1月号 | 外とつながる出入り口 |
2月号 | 大草原のノネコ母さん |
3月号 | ゆったりのびのびヨーガ |
もちろん予定はあくまで予定。実際のところは、12月号から先ちょっとずつ変更されている。なかでも注目すべきが、3月号で予定されていた『ゆったりのびのびヨーガ』。ところが実際に出た3月号は『森をそだてる漁師の話(第132号)』。ヨーガとは何の関連もなさそうなテーマの本だ。1995年といえば地下鉄サリン事件があった年。オウム真理教という宗教団体によって起こされた事件だ。オウム真理教の前身は、教祖である麻原彰晃が始めたヨーガ教室「オウムの会」。この辺の事情が絡んでいるのかなーと推測するが、その後ヨーガをテーマにした「ふしぎ」が出版されたかどうかはわからない。
1月号は『大草原のノネコ母さん (たくさんのふしぎ傑作集)(第130号)』、2月号は『みらくるミルク (たくさんのふしぎ傑作集)(第131号)』に変更されている。1月号で予定していた『外とつながる出入り口』こそ、12月号として出された、この『あけるしめるでるはいる』だと思われる。
![月刊 たくさんのふしぎ あけるしめるでるはいる 1995年 12月号(第129号) [雑誌] 月刊 たくさんのふしぎ あけるしめるでるはいる 1995年 12月号(第129号) [雑誌]](https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/51hOJYXzUmL._SL160_.jpg)
月刊 たくさんのふしぎ あけるしめるでるはいる 1995年 12月号(第129号) [雑誌]
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本書は「建物に開いた穴」について書かれた本だ。タイトルこそ抽象的にみえるが、その実、建物がまるで生き物のような、生気を感じさせるものとなっている。娘の“沙貴ちゃん”と会話しながら進められていることもあるだろう。「建物に開いた穴」すなわち戸口や窓などは、建物周りの自然や暮らす人々の生活に馴染んだ形に作られている、このことを実感できる内容になっているからだと思う。
出入り口や通気口を工夫して暮らしてきた人間の営みは、巣作りに工夫を凝らす生き物たちと通じるものがある。自然を利用して作った巣も、人工物で作られた家にしても、その生きものに合った"Entrance"*1が設けられているのだ。
人の住まない家は傷みやすいとは言われることだが、
家の中にいると、安心。でも、だからといって、とじこもってばかりはいられません。家の中の生活は、かならず外の生活とかかわっていて、それを調節しているのが、窓や戸口です。ぼくらはそれを、あけたり、しめたり。家はまるで呼吸しているようです。
と書かれるとおり、呼吸ができない家は死んでゆく。風や光、空気を適度に取り入れないと、外の世界とつながることはできないのだ。また、「一つ一つの家が、開口部をとおしてつながっている。そうした家々をとおして、町全体もつながっているのです」とも書かれている。こう考えると空き家問題は、まさに町全体の問題として取り組まなければならないことがわかる。
「作者のことば」で、作者は、もうひとつ家を作るものとして、忘れてはならないものがあるという。「時間」だ。現代の家は明るく便利になったが、昔の家にくらべて「時間」をたっぷり生きているとは思えないと言うのだ。
最後は、この考えに基づき、みずからの手で家作りをする実践が描かれている。大工さんの手も借りながら1年半、自分の手で少しずつ作り上げること5年。季節の移り変わりや、気候、温度や湿度などを感じつつ、時に失敗して作り直したり、仕事の関係で中断したりしながら、時間をかけて作り続けているという。自然のなかに建つその家は、秘密基地のようだ。「開口部」に注目して作られただけあって、窓や玄関の形がとても面白い。
「時間のなかで成長するような家作りをしてみよう」という作者の自宅は、どんな姿に成長していることだろうか。
この展覧会の時点で、すでに18年間作り続けられているというから、
それから10年以上経った今、違った変化を遂げているのかもしれない。