こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

落ち葉(第200号)

ここ数年、やはり毎年のように参加している公開講座が「子ども樹木博士」。

構内の樹木についてレクチャーを受けた後、机に並べられた木の一部(おもに葉っぱ)を見て、名前を当てるという試験形式のものだ。

子供は樹木に詳しくないから、受けるのは当然初級コース。30種類くらいのもの(覚える種類は毎年少しずつ異なっている)を当てるのだから、全問正解はさすがに難しい。とはいえ、毎年ちょっとずつ正答率が上がっているのが、成長を感じられて面白い。試験慣れそして試験勉強慣れしている親の私は、昔取った杵柄とばかり無駄に本気入れてやっているので、満点しか取ったことはない(無駄な自慢)。

こうして試験勉強的に覚えたものが何の役に立とうか?いや、立たない……と言いたいところだが、役に立つこともあれば立たないこともある、というのが現実のところだろう。「役に立つ」というのは、草木を見て「これは〇〇」と名がわかると親しみがわくこと。これまで植物に何の関心も持ってこなかったのが、少しばかり知識を得ると俄然違って見えてくる。これは触ってもあまり痛くないから、クロマツじゃなくてアカマツの葉っぱだねとか、これは裏にYの字が見えるからヒノキだ、とか仕入れたばかりの知識を元に同定してみたくなるのだ。風景の一部であるただの「木」も、ひとつひとつ違ったものとして浮かび上がってくる。

自然観察イベントの先生、地元野鳥クラブの方々を見ていても、得意分野はもちろん詳しいけれど、植物、昆虫などの知識も豊富にもっていらっしゃることに驚かされる。鳥は鳥だけで生きるのではなく、エサとなる昆虫や木の実、住みかとなる樹木など、さまざまなものが関わっているからだ。知識が増えれば増えるほど、世界の見え方が違ってくるのだろうなあと思う。

『落ち葉』で描かれるのは、異なる種類の木の、ひとつひとつ違う木の、これまたひとつひとつ違う葉っぱが見せる美しさだ。美しいといっても、描かれる落ち葉は、虫食いのあとがあったり、まだらに染まっていたり、端っこが朽ちていたり。鮮やかな紅葉とはほど遠いものだ。しかし、濡れて朽ちてぼろぼろになった様は、時の流れまで感じさせるよう、曰く言い難い美しさがある。

作者はひとつの落ち葉を描くとき、そこに自然の風景を見るという。風の音や、なつかしい音楽さえかすかに聞こえたりするのだと。われにかえって筆を置くと、どこか遠いところへ行ってきたような気分になるという。ひとつの葉をじっくり観察し、美しさを無心に描き取ろうとする心は、作者がいうところの「落ち葉の国」にまで飛んでゆくのだろう。

この号はのちに単行本として出されている。

表紙の静謐な美しさが印象的だ。まっさらな白に深い色合いがよく映えている。月刊誌はタイトルロゴなど雑多な情報を入れざるを得ないし、上製本のような紙質は望むべくもない。しかし、月刊誌版で秀逸なのはタイトルの字体だ。単行本は明朝体ベースで統一されているが、雑誌は落ち葉の「ち」だけ教科書体のような柔らかなフォントが充てられている。ひらがな一つの字体を変えただけで、何とも優しい雰囲気が出る。単行本で同じことをやると「ち」だけが目立ってしまうかもしれない。

このブログは、読んでくれる人がどの記事から入ってもいいようにと書いているつもりだが、季節感も意識していて、できる限り時季に合った「ふしぎ」を選ぼうとも思っている。しかし、今『落ち葉』を書くのはいささか早すぎるのでは?

実は前々から400号前後までに半分の200エントリを書くことを目標にしていて、200エントリ目は「200号」に合わせようかなーと目論んでいたのだ。結局、200エントリ目は200号という数字とは何の関わりもない記事を出してしまった。『落ち葉』のエントリが完成するまで待てばよかったのだが、書けた記事から公開したいという欲求に抗えなかった。

200号の記念には『ふしぎふしぎ200』という本が作られている。これまでの「ふしぎ」についての裏話の他、クロスワードパズルやなぞなぞなど、盛り沢山の内容だ。『きみはなにどし?(たくさんのふしぎ傑作集)(第94号)』の項で言及されている加納信雄氏は「たくさんのふしぎ」初代編集長だった方。「西暦2000年というくっきりした年のきざみめの年に亡くなった」そうだ。加納氏は「年のきざみ目は人間が考えた約束ごとさとよーくわかっていた」そうだが、私は自分の考えた約束ごとすら反故にしてしまうのだからどうしようもない。

ふしぎふしぎ200 (福音館の単行本)

ふしぎふしぎ200 (福音館の単行本)

<2024年2月24日追記>

キッピスの訪ねた地球(第111号)』で予告した、第101号〜200号までの記事一覧を発行番号順にご紹介する。

第101号    海は大きな玉手箱
第102号    ギョレメ村でじゅうたんを織る
第103号    シャボン玉は生きている
第104号    うたがいのつかいみち
第105号    森へ
第106号    顔の美術館
第107号    南極のスコット大佐とシャクルトン
第108号    つな引きのお祭り
第109号    6つの国から「わたしの絵です」
第110号    ムクドリの子育て日記     
第111号    キッピスの訪ねた地球
第112号    太平洋横断ぼうけん飛行
第113号    象使いの少年スッジャイとディオ
第114号    かべかべ、へい!
第115号    きになる みがなる
第116号    人形はこころのいれもの
第117号    パリ建築たんけん
第118号    ぼくの算数絵日記
第119号    ジプシーの少女と友だちになった
第120号    ひと・どうぶつ行動観察じてん
第121号    皮をぬいで大きくなる
第122号    かんたんレストラン 世界のおやつ
第123号    ノイバラと虫たち
第124号    わたしが外人だったころ
第125号    海はもうひとつの宇宙
第126号    ぼくは盆栽
第127号    ほら、きのこが…
第128号    水中さつえい大作戦
第129号    あけるしめる でるはいる
第130号    大草原のノネコ母さん
第131号    みらくるミルク
第132号    森をそだてる漁師の話
第133号    方言どこどこ?
第134号    まるいはマリモ
第135号    ダーウィンのミミズの研究
第136号    砂漠の虫の水さがし
第137号    小さなプランクトンの大きな世界
第138号    ぼくの島
第139号    マーシャルの子どもたち-水爆の島
第140号    美術館にもぐりこめ!
第141号    トイレのおかげ
第142号    その先どうなるの?
第143号    古くて新しい椅子 イタリアの家具のしゅうりの話
第144号    ぼくはカメレオン
第145号    虫の生きかたガイド
第146号    世界あちこちゆかいな家めぐり
第147号    パイロットが見た雲
第148号    カモノハシのなぞ
第149号    貝ものがたり
第150号    お姫さまのアリの巣たんけん
第151号    チューの夢 トゥーの夢 難民キャンプの子どもたち
第152号    思いこみマジック
第153号    ドイツの黒い森
第154号    すしだ、にぎりだ、のりまきだ!
第155号    ライオンタマリンの森
第156号    クマよ
第157号    じっけん きみの探知器
第158号    手で食べる?
第159号    トンボのくる池づくり
第160号    自転車ものがたり
第161号    ぼくが見たハチ
第162号    おしりをふく話
第163号    ナバホの人たちに聞く
第164号    熱はつたわる
第165号    塩は元気のもと
第166号    小さな卵の大きな宇宙
第167号    舟がぼくの家
第168号    アマガエルとくらす
第169号    世界の子ども きょうから友だち
第170号    カジカおじさんの川語り
第171号    球根の旅
第172号    時をながれる川
第173号    糸あそび 布あそび
第174号    ウミガメは広い海をゆく
第175号    お姫さま くもに会う
第176号    聴導犬ものがたり ジェミーとペッグ
第177号    海をこえてやってきた
第178号    巨鳥伝説
第179号    人がねむる 動物がねむる
第180号    7つ橋のぎもん
第181号    絵くんとことばくん
第182号    こんにちは、ビーバー
第183号    草と木で包む
第184号    電子の虫めがね
第185号    ほらふきおじさんのホントの話
第186号    地下にさくなぞの花
第187号    サボテン ホテル
第188号    光をつむぐ虫
第189号    熱帯雨林をいく
第190号    ジャンプ! ムツゴロウどろ干潟でとぶ
第191号    世界一の展覧会
第192号    写真の国のアリス
第193号    なんだかうれしい
第194号    マダコ
第195号    ここにも、こけが…
第196号    できたぜ! かくれ家 
第197号    風車がまわった!
第198号    走れ、LRT 路面電車がまちをかえた
第199号    カヌー 森から海へ 
第200号    落ち葉

※この辺のバックナンバーは図書館によって揃えてたり揃ってなかったり。「たくさんのふしぎ傑作集」として再出版されているものもあります。