例によってNHKをつけながら朝の用事を済ませていたら、カジカ漁の話をやっていた。
秋を楽しむ 秋の魚 カジカの釣り方とは? | おはよう日本 関東甲信越 | @首都圏 | NHK(※リンク切れ)
かつては東京の農山村でも、魚体のみならず卵塊までも食卓にのぼるくらい豊富に獲れた魚だったようだ。生息環境の悪化でほとんど見られなくなってしまったらしい。
そこで思い出したのがこの本だ。『カジカおじさんの川語り』は、ハナカジカの“カジカのおじさん”が、北海道の川で出会った“ぼく”に、川の様子を見せながら、生きものたちの暮らしを語って聞かせるというもの。
本書には「カジカのおじさん」が、一生懸命卵の世話をする(孵化まで保護をするのはオス)様子が描かれているけど、あの卵は食べられるくらいおいしいということか。「カジカのおじさん」そのものも、「なべこわし」の異名をとるほど美味であるようだ。
登場する生きものは、サケ、トゲウオ、ウグイ、キタキツネ、ヨシノボリ、カラフトマスなどなど。写真が語りすぎず、文章も詳しくなりすぎず、実にちょうどいい写真絵本だ。美しい風景があるわけでもなく、驚きを覚えるような文があるわけでもない。はっきりいえば地味な絵本だ。それでも何だかわからないけれど、何回も読み直したくなる。レイアウトも心地よい。文章と写真が調和した形で作られている。
力尽きたサケたちを描いた次のページには、こんな文章が書かれている。
海へ下っていったときには、わずかに10グラムくらいだったサケだけれど、海から川にもどってきたら、3キログラムにも4キログラムにもなっていた。
死んだサケたちを、ヒグマやキタキツネが食べるのを見た。トビやカラス、オオワシやオジロワシも食べていた。食べちらかされてバラバラになってくると、カワガラスやセキレイ、マガモが食べに来た。
「あのサケたちは、アラスカの海で小さなイカやクラゲを食べて育った。そのサケを、シベリアから来てまた帰っていく渡り鳥のワシが食うんだから、アラスカの栄養が、シベリアまで行っちまうってことだよなあ」
「カジカのおじさん」の語り口は静かだ。擬人化しつつも、生き物の生きざまを無闇に盛り上げたり、脚色し過ぎたりはしない。さっと読むだけだと、ともすれば中途半端な本、と受け取られかねない。ゆっくりじっくり読み進め、始めから読み返してみれば、じわじわと良さが伝わってくる。“川語り”とするにふさわしい、素敵な絵本だ。

- 作者: 稗田一俊
- 出版社/メーカー: 福音館書店
- 発売日: 2014/04/01
- メディア: 単行本
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