こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

水のかたち(第214号)

山の朝は美しい。

朝焼けに染まる山肌。輝く緑。朝露が日を受けてきらきら光っている。白山に登った時もそうだった。足もとの草には、蜘蛛の巣。露がおりて繊細なレースを作り出している。写真に撮っておきたいと思った。だがしかし。カメラに残されたのは、イメージとはほど遠い絵。その時感じた美しさと気持ちを思い出す縁にしかならないのだった。

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プロが撮る映像は、私のような素人のものとは違う。実物以上の美しさを描き出してくれる。子供が欠かさず見ている「さわやか自然百景」もその一つだ。先週の「冬 北海道 十勝川河口」でも、厳冬期ならでは素晴らしい自然を見せてくれた。氷点下の十勝に居らずとも、自宅で「ジュエリーアイス」を堪能できるのだ。煌めく無数の氷は、宝石と呼ばれるにふさわしいもの。番組ではその美しさを写し取るだけでなく、出来上がるまでの一部始終まで見せてくれていた。自然が作り出す水と光のマジックだ。

 

『水のかたち』でも、自然が作り出す魔法を見ることができる。舞台の一つはやはり山だ。夏山から秋の山、厳冬期と、自然と水が織りなすさまざまな変化を写し出している。チングルマの実についた露は、銀河と見紛うばかり。渦巻き状に象られたところに、大小無数の水滴が星々のように輝いている。

本文最後は、

水は、季節や気象条件によって、さまざまにそのかたちをかえます。これから、どんな水のかたちに出会えるのか、わたしはとてもたのしみです。

と書かれているが、出会いは一期一会。自然は、その時その場に居合わせた者だけに神秘を見せてくれる。二度は同じものに出会えない。貴重さにかけては、本物の宝石をはるかに凌ぐものだ。金を出したからといって買えるものではないし、時間をかけたからといって手に入るものではない。

お金より時間より、必要なのは「目」だ。見ようとする者だけに、自然は見せてくれる。「作者のことば」によると、増村氏は、いつもポケットにルーペをしのばせているという。気になるものに出会ったとき観察するためだ。ルーペを使うと、今まで気づかなかった世界が見えてくるという。何の気なしに見ていた景色も、「目」を持つことでまるで違った世界に見えてくることがある。わざわざ遠くまで出かけなくても、「目」さえあれば、未知や神秘はその辺にも転がっているのだ。

たくさんのふしぎ」は、世の中には多くの不思議があることを教えてくれる。各号さまざまな内容を紹介しているが、同時に「目」を持つ人たちを紹介するものでもある。「目」は特別なものではなく、その気になれば自分でも養えること。「たくさんのふしぎ」は、遠くにあるわけではなく、自分たちと地続きにあるものだということを教えてくれるのだ。