こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

おおふじひっこし大作戦 (たくさんのふしぎ傑作集)(第206号)

3月末、東北地方に引越した。夫の転勤が決まったからだ。

このご時世に?

このご時世でも。 

会社というところは、長年の慣例と既成概念を変えられないものらしい。どこぞの元検事長様のように「余人をもって代えがたい」業務があるでなし、定期異動なぞ不要不急の最たるものではないのか。とはいえ所詮は宮仕の身。粛々と引越しの準備をするほかはない。

本書はタイトルどおり、藤の木の引越しの話だ。

英題は“I am a tree doctor”

大藤の引越しをとおして樹木医の仕事を紹介する本でもある。

人間の引越しも大変だが、藤の引越しはもっと大変。なんせ3年がかりの大仕事だ。人間が引越しの際できるだけ荷物を減らすように、大藤も移動しやすいように根を切り、藤棚を縮小する。私も今回、多くの本を思い切って処分したが身を切られるようにつらかった。

藤は文字どおり身を枝を切られるわけで、その上傷口から腐りやすくなってしまうという。特効薬はない。著者は引越し後もなお、傷口の「治療」に腐心するが、とあるニュースから薬のアイディアを思いつく。

前代未聞ともいえる大規模な引越しには、さまざまな問題が待ち構えている。著者は大藤の生命力を信じつつ、慎重にときに大胆なアイディアで乗り切ってゆく。まさにお医者さんの名にふさわしい仕事だ。

表紙は、いっぱいに咲き誇る大藤の艶姿。傑作集の、濃い藤色に彩られたタイトル字は、背表紙として見る時はきちっと目立つのに、見開きにすると絶妙な色合いで絵と調和する。実に美しい。本文に載る写真、満開の姿も圧巻だが、絵は絵で別の魅力を引き出している。

1996年、あしかがフラワーパークに移植された大藤は、20年以上経った今、10倍以上の枝振りにまで生長したという。

残念ながら今年は「最も美しい時」をお客さんなしに迎えることになってしまったが、来年はまたフラワーパークの主役として、存分にその姿を、目の前に魅せつけてくれることだろう。

おおふじひっこし大作戦 (たくさんのふしぎ傑作集)

おおふじひっこし大作戦 (たくさんのふしぎ傑作集)