こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

しっぽがない! コアラとヒトのしっぽのなぞ (たくさんのふしぎ傑作集)(第365号)

東北地方に引越して、こちらのスーパーに来て、目に飛び込んできたのは、ホヤ。地元テレビもこれからが旬ですと、捌き方や料理の仕方を紹介している。一度食べたことはあるが、美味しかった記憶はない。でもせっかく産地にきたのだからと、二つばかり買ってむいてみた。見た目に反して意外と簡単だ。

恐る恐る食べてみると……独特の香りが口の中いっぱいに広がった。噛むたび、口に入れるたび異なる風味が上がってくる。まさに「味覚の基本要素の全てが一度に味わえる食材」だ。こんなに複雑な味は食べたことがない。

パワフルな味なので、たくさん食べたいという類のものではない。くさやはいける家の息子も、ホヤ刺は苦手のようだ。しかし少し経つと無性に食べたくなる、つまりクセになる味なのだ。私はこれからこの地で一生分のホヤをむき、せっせと食べることになるのだろう(山口では一生分のふぐを食べ、鹿児島では一生分の鳥刺を食べた)。

『しっぽがない! 』によると、ヒトとホヤは同じ一門に分類されるという。すなわち「しっぽ一門」であると。

しっぽ?

ホヤにもヒトにもしっぽなど無いではないか。

「しっぽ一門にはしっぽがないなかまもいます」ということらしい。

しかし、しっぽ一門に仲間分けされた中には、ホヤのほか、ヒトデ、カエル、ウニなど、しっぽがあるように見えないし、ヒトと同じ一門とも思えないものもある。

しっぽとは何なのか?

現にしっぽがあるかどうかということではなく、後口動物(しっぽ一門)か前口動物(しっぽなし一門)かという動物の分類のことなのだ。ヒトとホヤは「原口をまず口としてではなく肛門として使い、後から口が作られたグループ」であり、そういう意味で同じ仲間なのだ。

ホヤの魅力を堪能するツアーにいってきた :: デイリーポータルZ

によると「幼生の頃は脊索(背骨のようなもの)がちゃんとあって、オタマジャクシのように泳いで移動」するということで、さらに、

脊椎動物に進化しようとしたのに、間違ってイソギンチャクっぽい方に戻っちゃった動物って感じ。見どころは、幼生から固着生活に入る瞬間、10分かそこらで尾部が消失していく過程です!」

と解説されている。じつはホヤにはしっぽがあったのだ(ヒトの胎児期にも一時しっぽがあるけれど)!

 

ホヤの話から始めてしまったが、本書のテーマはあくまで、

骨のある動物に、しっぽがないものがいるのはなぜか

ということで「骨のない動物」であるホヤのしっぽの話ではない。ホヤの話まで飛んでしまったのは、私が中途半端な知識しか持たないため、本書を読み解くのにいろいろ調べることになってしまったからだ。

そんなに難しい話なのかというとそうではなく、おそらく本書は、

どうして人間にはしっぽがないの?

という、幼い子供がよく持つ疑問を「たくさんのふしぎ」らしく、少し突っ込んで解説した絵本だ。構成としては、

  • 陸上動物のしっぽのはたらきには共通点がなく、さまざまに分かれている
  • しかし、海の中の動物たちのしっぽには「泳ぐため」という共通点がある
  • しっぽの始まりは大昔の海の中にあった
  • 海から出て泳ぐ必要がなくなった陸上動物のしっぽは、はたらきがさまざまに分かれていったが、しっぽのはたらきがない動物はしっぽを失った

という感じで、進化の過程をだんだんさかのぼって考える仕組みになっている。読み解くのに苦労したというのは、なまじ動物の分類を中途半端に知っているがために、それぞれの段階で脊椎動物の話?陸上動物?水中でくらす動物?しっぽなし一門?と、どういうアプローチで話しているのか混乱しっぱなしだったからだ。かえってこういう知識を持たない子供たちの方が、素直に読み進められるのかもしれない。家の子供にいたっては、登場人物の一人である「ラブカのさがみ長老」を見て、あ、ラブカだよ!『図解 なんかへんな生きもの』に出てきてたよ!となんともストレートな反応で、なぜラブカで、なぜさがみ長老なのか、わかってるのかわかっていないのかという感じだったけれど。

ラブカ・ザ・巨大不明シャーク - 沼の見える街

 

登場人物の「シーラカンスのラチメリアさん」は、

今の動物の形をかんがえるときには、昔はどうだったか、その形がうまれたところまでさかのぼってみることね。それからこんどは長いながーい時間の流れにそって、どううつりかわってきたのかをみます。そしてさいごに、なぜそういうふうにかわったのか、わけを考えてみて。(本文より)

と語るが、なぜそういうふうにかわったのか、しっぽの役目が無くなったからしっぽも無くなったのだ、ということは分かっても、なぜしっぽの役目が無くなったのか、しっぽの役割がなくなる過程でどういう変化があったのか、については謎が残っているらしい。いぬやま先生(著者)によれば、その動物のしっぽの消失に関わる時代の化石(骨)が見つかれば、謎に迫れるかもしれないということで、その謎は「たくさんのふしぎ」を」読む子供たちへの宿題として手渡されている。私はなぜホヤがしっぽを捨て移動生活を捨てたのかを知りたい。

しっぽがない! コアラとヒトのしっぽのなぞ (たくさんのふしぎ傑作集)

しっぽがない! コアラとヒトのしっぽのなぞ (たくさんのふしぎ傑作集)