甲本ヒロトはかつて、
ドブネズミみたいに美しくなりたい
写真には写らない美しさがあるから
と歌ったものだが、どうしてどうして表紙のドブネズミのなんと愛らしいことか。
本号は、東京の繁華街に棲むドブネズミの姿を激写した「写真集」だ。激写というのは、センセーショナルな瞬間、決定的瞬間を撮る様子を表す言葉だが、本当に、ネズミのこんな瞬間、こんなさまざまな表情をとらえることができるなんて驚きだ。
植木鉢から2匹でちょこんと顔を覗かせるかわいらしい姿。お花を抱えてもぐもぐする様子なんて反則級だ。かわいい写真だけではない。闇に紛れて駆け抜ける姿、用心深げにあたりをうかがう様子、23ページの写真の、暗がりからのぞく警戒心に満ちた顔つきなんてマジでかっこいい。一方で、猫に追い詰められて怯えたり、カラスに攻撃されて飛び退く、情けない姿もさらしている。
この本の良さを紹介するのに、余計な説明は不要だ。「作者のことば」に書かれたエピソードまで含め、素晴らしい一冊をぜひ味わってほしい。
都会の底を這うように生きる、ドブネズミたちの美しい姿を篤とご覧あれ。
- 作者:原 啓義
- 発売日: 2020/06/03
- メディア: 雑誌