こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

まるいはマリモ(第134号)

チコちゃんに叱られる!をボーっと見てたら「マリモはなんで丸いの?」というトピックが出てきた。お、これは『まるいはマリモ』じゃないか。

「チコちゃん」で登場した専門家の方こそ、本号の執筆を担当した若菜勇先生だ。ちなみに執筆者である「阿寒マリモ自然誌研究会」のもうお一方は、海藻学者横浜康継先生だ。

マリモが丸い理由は生息地にあった 驚きの生存戦略をチコちゃんが紹介 | マリモ博士の研究日記

マリモといえば阿寒湖が有名だが、かつては外国にも大きなマリモがいる湖があったようだ。しかし水質汚染などの環境変化で絶滅してしまったり、絶滅の危惧に瀕していたりで、丸くて大きなマリモの群生というのは、今や阿寒湖でしか見ることのできない貴重なものになっている。

日本のマリモ・世界のマリモ / 国の特別天然記念物 ”阿寒湖のマリモ”公式サイト MARIMO Official Web Site

本書によると、その阿寒湖でも、今や限られた場所にしか生息していないのだという。群生が確認されているのは今も北部のチュウルイ湾とキネタンペ湾のみらしい。“今から40年ほど前まで”(この号は1996年発行だから1950年代くらいまでか?)は、なんとマリモの生息地に遊覧船が乗り入れており、観光客に湖底のマリモを見せていたという。観光資源としてのマリモは、当時盗掘や密売が横行する状態にも置かれていた*1。かつては西部のシュリコマベツ湾などにも群生地があったようだが、上流から運搬される木材でマリモが壊されたり、水力発電による水位の低下などが原因で、全滅してしまったようだ。

マリモをマモレ 阿寒湖で22年ぶりの調査、天敵は水草:朝日新聞デジタル

 

「チコちゃん」では、マリモが丸い理由として「嵐に乗じて湖を制覇するため」というドラマチックな表現で解説されていたが、本号でも、マリモと水草の生存競争の様子が描かれている。マリモは何層にも重なる群れとなって湖底を覆うことで水草の攻勢を防御しているのだが、群内で移動がないと下のマリモは光合成ができない状態に陥ってしまう。また、回転が起こらないと、上の方のマリモも砂や泥が積もって日光が当たりづらくなる。この移動(回転)を助けているのが阿寒湖に生じる風や波なのだ。 本書には、枯れ草に覆われて光合成ができなくなったマリモの残骸や、ヨシに串刺しにされて回転できなくなってしまったマリモの姿も写されている。丸いマリモは、日光が届きやすい浅瀬が広がり、かつ風や波の動きがあるところという限られた条件の下でしか生きられない、奇跡の植物なのだ。

しかし!マリモがすごいのは丸いという形だけではない。マリモは全部緑なのだ!緑藻の一種なんだから当たり前だろうと思われるだろうが、日光が当たらない中身の方も緑、すなわち葉緑体があるというのは、すごいことなのだ。葉緑体を作り出したり、葉緑体を持ち続けるというのは、なかなか栄養が要ることで、日光が当たらない部分にも葉緑体があるというのは、いわば「栄養のむだづかい」ということになる。本号ではマリモの断面とサボテンの断面を比べているが、一面が濃い緑のマリモとは対照的に、サボテンときたらほとんど真っ白、緑の部分はほんの表面だけにとどまっている。多くの草木の葉っぱだって、緑が濃いのは日光を受けるおもて側だけ、裏は白っぽかったりする。

マリモがすごいのは、全部緑というところだけではない。マリモは暗いところも平気なのだ!普通の植物は、暗闇に長く置き続けると細胞の中の葉緑体が壊れ枯れてしまうのだが、マリモはひと月やふた月くらい余裕で生きられるらしい。明るいところに戻せば、ふたたび光合成を始めることができるのだ。だからこそ、日光の当たらない中身の方も枯れずに葉緑体を持ち続けられるし、バラバラに分解してしまっても切れ端自身が光合成を続け、また丸い形に育っていくこともできる。

マリモは最大で約30センチくらいまで成長できるようだが、直径が10センチを超すあたりから芯の方に空洞ができてくる。というのも直径が大きくなれば、表面積(光合成で栄養を作り出す部分)も大きくなるが、体積(栄養を使う部分)はさらに増えるので、栄養のやりくりが難しくなってくるのだという。すなわち直径が2倍になれば、表面積は4倍になるが、体積は8倍にもなるので、直径が大きくなればなるほど、中身の方に必要な栄養量も増えるという算段になってくる。このあたりは、面積体積の勉強が済んでいる学年でないと、ちょっと理解が難しいところだろう。

「作者のことば」では、横浜先生*2が、 

 伊豆半島の下田で、海藻の光合成を研究してきた私は、マリモの中のほうの細胞まできれいなみどり色をしていることが、ふしぎでなりませんでした。(中略)

 いつかみなさんも阿寒湖の底へもぐってマリモにさわれるような日がくることを、私は願っています。 

と夢のようなことを願えば、若菜先生も、

 生物の研究は、生き物たちのメッセージを人間のことばになおすしごとであるようです。私は、きき耳ずきんやソロモン王の指輪の物語のように、マリモのことばを理解できるようになりたいと願っています。

 と夢を語り、写真担当の稗田氏からは、

 波にゆられ、ごろり、ごろりところがってくらすマリモ。ないだ日、ボートのへりからそうっと水の中を見たら、ある、ある、ある、たくさんのマリモ。泥をかぶったらいなくなるなあ、と思いました。マリモは太陽の子なのかもしれません。

と夢のあることばが寄せられている。それぞれの方のマリモへの愛が感じられるメッセージだ。

 それにしても「チコちゃん」でNスペ素材(NHKスペシャル 神秘の球体 マリモ~北海道 阿寒湖の奇跡~ | NHK放送史(動画・記事))使うんなら、その後に再放送をかければいいものを、なぜ再放送の後に「チコちゃん」をもってくるかなあ。Nスペダーウィンとかの良いところだけ掠め取って編集する「チコちゃん」は、つくづく気に入らない番組だ。