『その先どうなるの?(第142号)』では架空の遊園地「きりなしランド」を、『7つ橋のぎもん(第180号)』では古都ケーニヒスベルクを案内してくれた作者が、次に手掛けるのはなんと豪華客船クルーズ。作者は「数学旅行作家」を名乗るからにして、ただのクルーズ、ただのミステリーツアーではない。ミステリーはミステリーでも、数学パズルをからめたミステリーなのだ。
覆面算に、迷路パズル、トポロジー、魔方陣といったトピックを、豪華客船で起こる“事件”にからめつつ展開する物語。たとえパズルに取り組まなくても面白いお話に仕立てられている。私はひととおり読んだあと、再読してパズルに挑戦してみたが、子供は紙もペンも使う様子がなかったので、パズル部分はスルーしたものと思われる。小学生向けだから、すごく難しいパズルではないけれど、それなりに頭を使うものになっている。縄抜けのシーンだけは、パズルと気づかなかった子供も多かったかもしれない。
クルーズの雰囲気や船内の様子も盛り込んでおり、豪華客船自体を紹介する本にもなっている。絵のテイストはカジュアルなので、あまり“豪華”に見えないのが惜しいところだ。イラストを美麗にしすぎて、ビジュアルに目を奪われても本末転倒。これくらいがちょうどいいのかもしれない。
舞台となる客船は、その名も「はてな丸」。外観からしてモデルはにっぽん丸ではないかと思われる。協力に商船三井の名もある。横浜から神戸へのワンナイトクルーズという設定だ。付録には、船内案内図と船の組立工作がついていて、夏休みらしい号になっている。船内案内図って、見るだけでわくわくしてくる。豪華客船なんてとんと縁がない話だけど、ただの客船だって船内案内図はついている。おがさわら丸とか乗船中、船内案内図を飽かず眺めては探索に出かけたりしたものだ。
「作者のことば」によると、仲田先生は「数学ルーツ探訪」の世界旅行を達成した後、新境地を求めクルーズ旅行に参加することにしたという。ギリシア船、イタリア船、日本船、イギリス船など、先生曰く「世界四大海運民族の豪華客船で5回のクルーズを体験」している。クイーン・エリザベス2 乗船時のクルーズカードの写真があるが、2004年3月に横浜から香港まで乗ったことがわかる。
今や豪華客船クルーズは、“ハイリスク”な旅となり、いつ再開するとも知れぬ幻のツアーとなってしまった。こうした誌面上でなら、いつでもどこでも安価に楽しむことができる。今後、豪華客船クルーズ自体が無くなってしまうことはないだろうが、航海ルートや船内でのエンターテインメントなど、これまでとは違った形での運航になる可能性がある。一度でも乗っておけば良かったかなあという考えがよぎったが、たぶん(経済的に)乗れなかっただろうなあ。