こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

皮をぬいで大きくなる(第121号)

子供はかつて、バッタに夢中だったことがある(『バッタのオリンピック (たくさんのふしぎ傑作集)(第6号)』)。

東北に引っ越してこちらでも、生きものクラブみたいなのに参加しているが、先日バッタを捕まえるイベントがあった。鳥キチになった今でも、バッタの捕獲や識別の腕はおとろえていなかった。

バッタに飽きた子供は、ハナムグリをいじくるのに熱中していたが、まあ気付いてみればこんな甲虫類も大好きのようだ。いわく、カブトムシとかよりこういうのが好きなんだよ、とのこと。東京のマンションでも外廊下に落ちてるカナブンとかドウガネブイブイとか捕まえてたっけ。ある時ベランダに飛んできたガムシにも興味津々だった。ガムシ……地味なことこの上ない。虫の好みってわからんものである。

 

ある時、虫好きだった頃の子供を連れて出かけたのが「虫の詩人の館」だ。

NPO法人 日本アンリ・ファーブル会

1階には生体や標本が展示されていて、昆虫と触れ合うこともできる。地下階にはファーブルの生家が再現されており、小さいながら素敵な昆虫館だ。甲本ヒロトも訪れたことがあって*1、メッセージを寄せたパネルが展示されていた。↑THE HIGH-LOWS↓で「毛虫」ってかわいい曲も作ってるけど、そういやアルバムタイトルも『angel beetle』だなあ。

この「虫の詩人の館」を作った人物こそ『皮をぬいで大きくなる』の作者、奥本大三郎先生だ。

皮をぬぐのは、大きくなるとき。

それから、すがたを変えるとき。

何回も皮をぬいで、さいごにおとなの虫、

つまり成虫になるんだ。

シンプルな文、シンプルなイラスト。余白をふんだんにとり、さらさらっと描かれるのは「かがくのとも」かと思えるほどだ。軽やかなイラストもあいまって、ちょっと物足りなさを感じてしまうくらいだ。しかし「脱皮」についてのエッセンスだけを取り出して、子供たちに伝えるというのはなかなかできることではない。脱皮*2といえば昆虫だし、昆虫の本といえば、ついつい写真をたくさん使って、説明もたくさん入れてというものになりがちだ。だからこの本は、昆虫の研究者ではない、文学者である奥本先生だからこそ作れるものなのだ。

人間は脱皮しない。脱皮しなくていい理由も本号に書かれている。けれども“脱皮”ともいえるような変化は人間にも起こる。家の子供もちょうど“脱皮”の入り口に立っている。これからどんどん身体が変わるし、こころも変わっていくのだろう。生きものの脱皮が危険をともなうように、人間の“脱皮”も不安定と混沌のなかでおこなわれるものだ。自分を思い返しても思春期はたいがいだったし、苦しくてコントロールが難しい時期だった。皮をぬぐというのは、大変なことなのだ。この後、子供にどんな変化が起こるのか、どんな男になっていくのか、恐ろしくもあり楽しみでもある。

読み終わった子供が、この絵、村上康成だね、いっぱい絵本描いてるよね!と言い出した。あまり彼の絵本を読んでやったことはないはずだが…。ひと目でその人だとわかる、特徴あるイラストというのはすごいものだ。

村上氏のイラストは、一見適当にちゃちゃっと描いているように見える。木なんて茶色の棒に緑の丸をつけただけだ。しかし、これを灰色の棒に黒の丸に変え、星を散りばめただけで夜になるのだ!星にいたっては、青色の丸のなかに黄色い星を配置しただけのもの。夜を描くのにバックは白のままだ。28〜29ページの昼の風景が、30〜31ページでは夜に変わるのだが、白地のままこんな工夫で夜を表現できるとは驚きである。まさにモノのエッセンスを取り出したイラストだ。

*1:NPO法人 日本アンリ・ファーブル会 │ 館長の部屋 「7月25日 ~ 甲本ヒロトさん来館 ~」参照。

*2:寄生バチは、寄主が脱皮したりさなぎになったりすると都合が悪いので、それらを止める“お薬”も注射してしまうようだ。またハチの話か!