こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

海と川が生んだたからもの 北上川のヨシ原(第432号)

大きな地震があった。

こんな規模の地震は初めてだ。とりあえずという感じの対策はしていたけど、食器棚が倒れてなかの物がだいぶ割れてしまった。

先の震災は鹿児島にいたし、その前も比較的地震の少ない地域にいた。東京含め関東で暮らしていた頃も、さいわい大きな地震に遭うことはなかった。今回も大丈夫だろうという「正常性バイアス」。いざ大きいのが来たとき、なにも動けなかったので、想像だけじゃ限界があるもんだなあと痛感した。

『海と川が生んだたからもの 北上川のヨシ原』は、まさにここ、いま住んでいるところから、遠くない地域が舞台だ。最初読んだとき、震災をからめて書くのは止そうと思っていた。私は震災前の姿をまったく知らないからだ。私が見ているのは、震災後10年近く過ぎたいまの姿。だから、いまの姿、これからの姿をこそ、見ていくほかはないのではと。でもこの地域は、否が応でも地震と向きあっていくしかないところなのだ。これからの姿というのは、過去の変化と無関係なものではなく、ひとつながりで続いているもの。今回の地震で、今さらながら実感せざるを得なかった。

本号も、現地の回復途上にある風景だけを描いた本ではない。宮城県に住む著者が、ヨシ原に注目し始めたのは、今から20年以上も前のことだからだ。しかし実はこのヨシ原も、

 河川の改修により本格的にヨシが生えはじめ、現在の風景になりました。キロメートル以上にわたってつづき、日本有数のヨシの群生地と言われています。

ということで、最初からこの風景でなかったことが書かれている。

ヨシ原は、生きものたちの格好のすみかとなる。渡ってきたオオヨシキリが子育てすれば、ダイサギたちが魚をねらっている。トビやミサゴ、カワウも獲物を探し回っているし、冬になればハクチョウ、カモ類、オオワシや、コクガンまでやってくるのだ。

家の近所にも川があって、ちょっとしたヨシ原が繁っている。初夏はオオヨシキリがやってきて本当ににぎやかだ。俳句でうるせー!と詠まれるのも無理はない。カッコウも鳴いているけど、ギョギョ氏たちにはかなわない。オオヨシキリに育てられるカッコウの子は、よく感化されないものだと思う。

個々の生きものたちの姿が写真で載るなか、以前いたヨシゴイとヒヌマイトトンボだけはイラストが使われている。「作者のことば」によると、震災後撮影をおこなった中で、この二つは見つからなかったという。

 震災後、ぼくは、ヨシ原の自然を撮影するようになりました。当たり前にあった自然も一瞬にしてなくなることを目の当たりにし、記録することの大切さを実感したからです。(本号「作者のことば」より)

イラストは『青い海をかけるカヌー マダガスカルのヴェズのくらし(第408号)』でも組む、牧野伊三夫氏がつけている。濃い緑と茶色を基調に表現した絵は、ともすると画面が暗くなりがちだが、あたたかみのあるタッチがそれを和らげている。ヨシゴイがヨシにつかまる様子は実にユニークだ。焼きハゼ雑煮のイラストも、なんと美味しそうに見えることか。落ち着いた色合いで描かれるからこそ、写真のあざやかさが一層映えてくる。

 

先日、オジロワシオオワシを探しに行った帰りに「道の駅 上品の郷」に寄ったが、交通情報案内所内に震災伝承コーナーが設けられていた。本号に載る、ヨシ原の自然と焼きハゼの文化についても触れられている。

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震災伝承コーナー展示(一部)

「作者のことば」は、

 東北へ旅行に来ることがあったら、北上川のヨシ原に足をのばしてみませんか。再生しつつあるヨシ原の雄大な風景と、貴重な生きものや植物たちが、みなさんをまっています。

という言葉でしめられている。

地元でもない私がいうのもどうかと思うが、世の中が落ち着いてきたら、ぜひおとずれてみてほしい。写真映えするとかそういう風景ではないけれど、しみじみ自然のパワーを感じ取れる場所だ。