こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

大きなヤシの木と小さなヤシ工場 (たくさんのふしぎ傑作集) (第89号)

外国の小学校 (たくさんのふしぎ傑作集) (第13号)』で、インドネシアの小学校(ジャワ島スメダンにあるパサレアン小学校)の取材通訳を担当した、福家洋介氏による「ふしぎ」。

福家さんはかつて、スメダン近くにある村で暮らしていたことがある。今回訪れたのはそこからタンポマス山をまわり込んだところにある、スカルワンギ村。海抜600メートルを超える山の中の村だ。

本号のタイトルは「大きなヤシの木」と「小さなヤシ工場」。

ヤシというと熱帯地域でおなじみのココヤシがまず思い浮かぶが、本書のトップバッターもココヤシだ。ココヤシを使って「小さな工場」で何を作るのか?ヤシ油をとるのだ。

家族総出の作業は、家内制手工業そのものだ。自家用消費が主だから「工業」でもないのかもしれない。

まあ、手順が多いこと多いこと。

アマゾン・アマゾン (たくさんのふしぎ傑作集)(第70号)』での、ファリーニャづくりはじめ「ふしぎ」では手間もヒマも時間もかかる手作り製品をたくさん紹介しているが、これもその一つということになるだろう。

14〜15ページにはその全容がイラストとともに紹介されているが、かなり情報量が多い。見づらいというわけではない。道具についてあーこれも手作りかとか、あー燃料は木切ってきて薪作らんといけんなあとか。搾りかすは魚のエサになるのかとか、その魚を食べるのかとか。そんな感じで「ヤシ油のつくり方」一つとっても、ヤシ油だけを作ってるわけでないことが見えてくるのだ。原料を火にかけてる間も掃除したり、かまどの火でお煎餅を焼いたり。掃除するホウキが手作りなら、掃除されたヤシ殻はかまどの燃料に。焼かれる前の干し煎餅だってもちろん手作りだろう。

それはサトウヤシからの「赤砂糖のつくり方」「デンプンのつくり方」も同じだ。

 台所や居間が、そして田んぼのかたすみが、ヤシから油や砂糖、デンプンをつくる“小さな工場”にかわる。

 “工場”といっても、機械がまわるわけではない。道具は手づくり、動力も電気とかではなくて、人間の力。それだけで油や砂糖やデンプンができるので、ぼくは手品を見ている気分だった。村の人が手品師に見えてきた。

本号の英題は"Indonesian Village Magicians Using Palm Trees"。

確かに、出来上がった商品を買うだけの生活をしていると、手作業でなんでも作ってしまうのに素直に驚かされる。

面白かったのがホウキづくりのシーン。

著者が、ホウキづくり名人、アルディじいちゃん&ラムナンばあちゃんのホウキづくりを取材していると、子供たち、つられて大人たちもわらわらと集まってきた。彼らは何年も何年も名人夫妻のホウキづくりを見てたはずなのに、じっくり見たことがなかったのだ!

(身近なものは見のがしやすい。それはぼくだっておなじだ。)

というかっこ書きが心に響いた。私にも、見のがしている身近なものがきっとあるはずだ。

合わせて読んだのが『ゾウの森とポテトチップス』。

『大きなヤシの木と小さなヤシ工場』とは対照的な「大きなヤシ工場」の話だ。

同じインドネシアの領地でもあるボルネオ島インドネシアではカリマンタン島)では、アブラヤシプランテーションが盛んに行われている。パーム油をとるためだ。パーム油は私たちの生活には欠かせない重要なもの。食品加工のみならず、洗剤や石鹸の原料に使われるなど用途は多岐にわたっている。『大きなヤシの木と小さなヤシ工場』でも、6〜7ページにヤシ油やパーム油を使った製品がずらりと並んでいる。

そのパーム油を効率的に作るため、森林の破壊と引き換えにアブラヤシが大量に植えられているのだ。

アブラヤシが整然とならび、一見緑でいっぱいに見える風景。実は砂漠だ。「緑の砂漠」なのだ。単一の植物しかないところで、野生動物が暮らすことはできない。『大きなヤシの木と小さなヤシ工場』のスカルワンギ村でもココヤシを栽培しているが、そればかりでなくバナナやパパイア、キャッサバなど多くの種類の木がいっしょに植えられている。

ぼくたち人間の生活を豊かにするために、

たくさんのアブラヤシがうえられ、

そのせいで、動物たちの

生活の場をうばってしまったのです。

知らなかったとはいえ、

とてもショックでした。

(『ゾウの森とポテトチップス』21ページより)

生息地を奪われた野生動物たち。人間との軋轢を生む事態にも発展している。ゾウがプランテーションを荒らしたり、民家を破壊したり。ゾウを恐れる人間たちが、逆にゾウたちを傷つけることもある。灯油をかけられ火をつけられて焼け爛れたゾウの写真は実にショッキングだ。

救いもある。ぬかるみにはまり込んだゾウをパワーショベルで助け出す人たちもいれば、もともとゾウが先にいたんだから、畑を壊されることがあっても仕方がないのよと受け入れる人たちもいる。

しかし、プランテーション開発による森林破壊問題は、まだまだ解決の途上にある。

パーム油 私たちの暮らしと熱帯林の破壊をつなぐもの |WWFジャパン

いち消費者にすぐできることといえば、フェアトレードと同じく(『コーヒーを飲んで学校を建てよう キリマンジャロとルカニ村(第339号)』)、「RSPOマークがついた商品」を選ぶことくらいだろうが、まずは関心をもって知ることがその第一歩かもしれない(RSPOマークがついた商品は家でも一つ見つけることができた。単にその商品が好きだから選んでいたが、知らずに買っていたようだ)。