読み応えのある絵本だ。
まず、字が多い。
写真もふんだんに使われているが、文章量もかなりのものだ。一読しただけでは、なかなか内容を掴むことができなかった。
話の流れがわかりにくいのだ。
最近記事を書いた「ふしぎ」の中でも、たとえば『カーニバルがやってきた!(第279号)』は、小見出しがついているのでトピックがわかりやすい。小見出しがついていなくても『地球縦断の旅 北極から南極へ(第446号)』のように時系列で描かれるものなら、容易に流れをつかむことができる。
しかし。
この『まぼろしの大陸スンダランド』は、果たしてボルネオの自然の話なのか、はたまたオランウータンの話なのか、そしてスンダランドはどうつながるのか。さらっと読んだだけでは理解できなかった。
わかりにくい要因はもう一つ。(私にとって)馴染みのない地域や生きものが多く登場すること。少しでも知識があれば、ああこういうことねと想像できるのだが。
わかりにくい、理解できない、想像が難しい……
こういう時にできることは何か。
一回読んで理解できないなら、何回も読めばいいのだ。何回も。
「たくさんのふしぎ」は小学生向けだ。小学生にわからない言葉や言い回しで書かれるはずがない。文章を正確に読んで、頭の中できちんと絵を描けば、必ず理解することができるはずだ。何回も繰り返し読めば、どういう流れで展開されているのか、必ず掴むことができるはず。
まずわかったのが「ボルネオの森の特異性」。
アフリカや南アメリカ、マダガスカルなどで見られる普通の熱帯雨林とは違うこと。
そして話のキーワードは「世界一」。特異なボルネオの森には、さまざまな「世界一」が存在しているのだ。
たとえば世界最大の花、ラフレシア。
「おちてきた実にあたったら死ぬよ」と言われる世界最大の果実が生れば、鉄の釘が打ちこめないほど硬い木も自生する。熱帯雨林のご多分にもれず、昆虫の数も大きさも最大級。モリオオアリなど、日本のクロオオアリの3倍はある。
特異な森では、生活も特異になる。
ボルネオの生きものは飛ぶ。カエルが飛び、トカゲも飛び、ヘビも滑空する。哺乳類だって飛ぶ。
特異で、世界一なボルネオの森。
その中でも、作者がいちばんに紹介したいものこそオランウータンだ。
オランウータンの世界一とは?
彼らは「世界一体の大きい樹上生活者」なのだ。
私はサルを見るため木にのぼるので、木の上で体重が重いのはどんなにたいへんなことか、よくわかります。ゆれる木の上は不安定で、枝は折れやすく、おちたら大けがをします。
なぜオランウータンはそんなに重い体で樹上生活ができるのか、その秘密を知りたいと思ってやってきたのが、ボルネオ北部のダナンバレー自然保護区でした。
・樹上生活に特化した体の仕組み。
・アイアイ(『なぞのサル アイアイ (たくさんのふしぎ傑作集)(第226号)』)との意外な共通点。
・大きな体を養うエサの秘密。
このあたりの話は、サル研究をものする著者ならではだ。興味深い話が盛りだくさん。ぜひ本書に当たって読んでみてほしい。ここからどう「スンダランド」「ボルネオの森の特異性」そして「世界一」というキーワードにつながっていくのかも。冒頭2〜3ページの地図と、終盤34〜35ページの地図を見比べながら読み返せば、長大な時間の流れに想いを馳せることができる。
ちなみに多摩動物公園では、このボルネオオランウータンを見ることができる。「スカイウォーク」という、まさに樹上生活を生かした展示も行われている。多摩には何度も訪れているが、スカイウォークを見たのは子供の幼稚園の遠足の時一度きりだ。スカイウォークをするかどうかはオランウータンの気分次第だからだ。この時もけっこう待って、ようやく一頭がおざなりに移動したくらいだった。
オランウータンのスカイウォーク再開と時間変更について | 東京ズーネット
オランウータン舎スカイウォーク終点の飛び地 || じっくり見学!動物園
本当に、この本を読んだ今だったら多摩のオランウータンをもっと興味持って観察できたのになあ。「ふしぎ」を読むと、いかに物事を漫然と見ているか痛感させられる。
わかりにくい、理解できない、想像が難しい
と書いたが、必ずしも「わかりやすい」ことが良いわけではない。むしろほどほどに「わかりにくい」方が、かえって頭に残る。理解しよう、想像しよう、そのためには正確に読もうという意識がはたらくので、頭をフルに使うことになる。頭を使うと記憶にも残る。わかりやすいものは、わかったつもりにもなりやすいのだ。だからスッと読めてしまった「ふしぎ」の方が、意外と本当には読めていないのかもしれない。