こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

ゴリラが胸をたたくわけ (たくさんのふしぎ傑作集)(第325号)

木のぼりゴリラ(第355号)』で「人間の、ニシゴリラに対する悲しい歴史」について触れた。

動物園に送るためたくさんのゴリラが捕らえられたが、その多くは子供。子供を守るため、ドラミングして立ちはだかった大人のゴリラたちに「ハンターたちはためらうことなく鉄砲の引き金を引いた」という(本号12ページ参照)。

ドラミング?

ドラミングといえば、鳥屋にとっては木突きとか母衣打ちとかだ。そういえばゴリラもドラミングする動物だった。

ゴリラのドラミングは長いこと「ゴリラが敵に立ち向かったとき、戦いを宣言し、相手をおどす行動」だと言われてきた。ドラミングをしながら突進し、相手を引き裂いてしまう恐ろしい野獣だと思われていたのだ。イメージを確固たるものにしたのが、かの有名な「キングコング」だ。この映画で、ゴリラ=凶暴という印象は決定的なものになってしまった。

 おかげで多くのゴリラが殺されました。

著者も初めてドラミングに遭遇したとき、とても緊張したという。従来どおり、戦闘開始の合図として捉えていたからだ。

しかし、続けて観察するとどうも様子が違う。

ドラミングって、ほんとうに戦いの宣言なんだろうか。そのとき私は疑問に思いました。

調査を続けていくと、ドラミングは“シルバーバック”と呼ばれる成熟したオスだけでなく、メスや子供もおこなうことがわかってきた。しかもさまざまなシーンで使われていたのだ。

とくに子供たちはドラミングを多彩に駆使している。相手をからかったり、元気づけたり、音の大きさを競い合ったり。

 人間にとっての言葉のように、ドラミングはゴリラの子どもたちにとって成長するのになくてはならない能力です。それは仲間とつきあうために、さまざまな状況で使われ、おたがいの気持ちをはかる道具になっているのです。

ゴリラが胸をたたくのは? 怒ったときだけじゃないよ - YouTube

 

もちろん、大人のオス同士が睨み合いするときにもドラミングは使われる。これは自己主張のためだ。著者が見た場面では、別の若オスの仲裁で一触即発の事態は回避されている。二頭は仲裁を受け入れた後、少し離れてドラミングしてから去っていったという。大人にとってもドラミングは単純なサインではなく、さまざまな意味合いを含む身体言語なのだ。

群れどうしが出会った時もドラミング。

リーダーたちのドラミング合戦は、群れどうしが衝突しないように平和にはなれあおうという提案です。19世紀の人々は、それを戦いの前触れだと勘ちがいしたのです。

今や「キングコング」のイメージでゴリラを見る人は少なくなっているかもしれないが、それでも印象が変わること請け合いだ。外見の力強さとは裏腹に、豊かで繊細な感情と表現手段を持ち合わせているのに驚かされる。

 

イラスト担当はもちろん阿部知暁氏。『木のぼりゴリラ』では繊細な線で、毛並みまで見えるような描き方をしていたが、本号では力強いタッチで表情豊かに描きあげている。原画を見てみたいなあと思った。