こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

うんこ虫を追え(第447号)

舘野さんが、満を持して「ふしぎ」に登場。

しかもうんこ虫と来たよ。

舘野鴻氏との出会いは『しでむし』が最初だった。シデムシという“日陰者”に、美しくスポットを当てた作品。ひと目でつかまれた。その後も『ぎふちょう』『つちはんみょう』『がろあむし』とすべて読んでいる。大判の画面に緻密なイラスト、ムシのどアップが満載。苦手な人には厳しいかもしれないが、どれもこれも素晴らしい絵本だ。

そんな舘野さんの『うんこ虫を追え』。どんな「ふしぎ」ができるんだろう。

重厚で、ともすれば読むにもパワーがいる作品の数々。意外や意外「たくさんのふしぎ」では一転、軽やかでコミカルに仕立てられている。

初っ端からこうだ。

オオセンチコガネという虫がいる。

宝石のようにキラキラ輝き、丸っこい体に短い手脚もかわいい。

そして、この虫の大好物は……うんこ。つまりうんこ虫だ。

うんこに宝石、このギャップがたまらなく魅力的。

偕成社の絵本では一観察者に徹していた舘野さんが地を出している……。このギャップがたまらなく魅力的。

次のページでは早くもイラストでご自身がご登場。しかもうんこ座りだ。

それからも地が出る、自が出る。

キラキラかわいいオオセンチコガネは絵本の主役にもってこいだ。

しかもうんこがあれば簡単に飼育できそう。

とかいいつつ、

飼育するとなると……あ、うんこの調達か。やだなあ。

ですよ。

参考書としてファーブルの本を読みつつ、

あらためて読むとやっぱりファーブルはすごい。

変わり者というか一途というか、

謎に挑みつづける情熱はハンパではない。さすがだ。

と感心する一方で、

私にそこまでできるかなあ。

という弱音も。

何をおっしゃいますやら。しまいにゃ自分のうんこ、名付けて“オレフン”も駆り出してくる(放り出してくる)アナタが、聞いて呆れますよ。

こんな調子で綴られていくけれど、中身はいたって真面目そのもの。遊びながらやってるように見えて、きちんと「観察、実験の結果を整理し考察する」ものになっている。

観察を始めてから4年。少しこの虫のことがわかってきた。

ようやく絵を描き始められそうだ。

『がろあむし』は取材に10年を費やしたというから、4年なんて短く感じられてしまうのがこわいところだ。

オオセンチコガネの、そして舘野さんの魅力をたっぷり味わえる一冊だ。別に「キラキラかわいい」とか思ってなかったオオセンチコガネが、本当に愛おしく思えてくる。ムシのどアップはほとんどないので、苦手な方(子供)もイケるはず。表紙に登場するサイズがマックスといっていい。事前の期待以上、最っ高の絵本に仕上がっている。ふしぎ新聞の「作者のことば」も必見だ。

<2022年7月29日追記>

このツイートを見て、「月刊むし」を取り寄せて読んでみた。『うんこ虫』で描かれるイラストの元ネタ写真が見られて面白かった。

本号に書かれないものの中で、興味をひかれたのが「共生微生物」の話。

カブトムシの音がきこえる 土の中の11か月(第396号)』でも、幼虫が一見貧弱に見える腐葉土から栄養分を摂取するのに、腐葉土に含まれる微生物が関わっているのみならず、体内に持っている腸内細菌が関係していることが書かれていた。

オオセンチコガネやセンチコガネのような食糞コガネムシも、自分の腸内にいる共生微生物の力を借りて、糞から栄養を摂取している。これは母虫が育児塊を作る際に添加され、幼虫にも受け渡されると考えられている。一方で糞を含む育児塊自体の発酵にも微生物の力が関係している。しかし関わる微生物はそれぞれ別物かもしれないというのだ。成虫が食べる糞と幼虫が食べる糞(育児塊)は違うし、何より成虫と幼虫では大顎の形状が異なっている。

ただ、これ↓

産総研:共生細菌が宿主昆虫の幼虫と成虫で異なる機能を担う

を読んで考えてみたが、もしかしたら、同じ一つの共生微生物でも幼虫と成虫で全く異なる機能を果たしているということはないだろうか。なんも知らん素人の勝手な妄想にしか過ぎないけど。

 

本号や「むし」の報文によると、オオセンチコガネは条件の一つとして、イネ科の植物が豊富な環境を好んで繁殖場所に使っているようだ。育児塊の材料となるのも草食動物の糞。草食動物の糞の代わりに人糞を使った実験でも、できた育児塊にはイネ科を中心とした枯れ草が使われている。しかし人糞配合の育児塊の卵は死亡しているものも少なくなかったそうで、湿度の問題や防腐滅菌の問題があるかもしれないと書かれている。

イネ科の植物はそのままだと栄養分に乏しいもの。牛や馬といった草食動物は、やはり腸内細菌の力を借りて栄養分を作り出している。オオセンチコガネの育児塊にはイネ科の植物が関わっているものの、栄養分として幼虫に受け渡すには、草食動物の糞という形や、発酵という形で微生物の力が必要なのかもしれない。本号の実験でも人糞含め雑食動物の糞そのものからは育児塊を作らなかった。これはイネ科の植物を栄養に変える力がないからかもしれない。でも昔の日本人のうんちは繊維質も豊富で硬かったという話(『おしりをふく話 (たくさんのふしぎ傑作集)(第162号)』)だから、そういううんちだったらオオセンチコガネのお眼鏡に適ったかな?いや、さすがに昔の日本人でもセルロースをたくさん消化して栄養に変えられるだけの身体ではなかったか。

舘野さんたちもまだまだ研究途上のようだし、この先実験を続けていく上でどんなことが明らかになるのか楽しみだ。

 

2020年10月号の報文には、「この調査にご協力いただいた」中に、伊沢正名氏、奥本大三郎先生、甲本ヒロトの名前が見られる。

伊沢さんは野糞関係?(『トイレのおかげ (たくさんのふしぎ傑作集)(第141号)』)

本号の協力者でもあり、「むし」でも共同で報文を書いてる“コンドーさん”はNPO法人 日本アンリ・ファーブル会の幹事。奥本先生と甲本ヒロトはそのあたりのつながりからだろうか(皮をぬいで大きくなる(第121号)』)