こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

なぜ君たちはグルグル回るのか 海の動物たちの謎(第452号)

今年も彼らがやってきた。

マガンたちだ(『からだの中の時計(第440号)』)

今年の初飛来確認日は9月17日。去年より1日だけ早い。

10月に入り、続々と到着し始めている。

よくもまあ何千キロも離れた繁殖地から、毎年毎年ジャストなタイミングで渡ってくるものだ。そうしないと生きられないとはいえ、その正確さに感心することしきりだ。

 

動物たちは、海の上でどうやって帰りたい島の方角がわかるのですか。

動物は地図も方位磁針も持っていないのに……

『なぜ君たちはグルグル回るのか 海の動物たちの謎』は、地図も方位磁針もそして時計も持ってない動物たちが、どうやって長距離の移動をこなしているか?の謎に迫るお話だ。

お話を動かすのは「教授」と、若手研究者である「トモコ」と「ユースケ」。

動物たちが教えてくれる 海の中のくらしかた(第389号)』でもお馴染みの、バイオロギングを使った研究が紹介されている。

研究内容は、ここで中途半端にご紹介するより、本文をご覧いただく方が絶対に面白い。「グルグル回る」発見からは、ページを繰る手が止まらなくなるはずだ。

が、しかし。

さあ次の調査に行ってみよう〜!というところで突如として終わってしまう、なんとも罪つくりな本なのだ。ちょっとちょっと、これからが面白いとこなんじゃん!?そこはまだ絵本に盛り込めるほど研究が進んでないということなんだろうけど、続きが気になって仕方がない。

 

誤解を恐れずに言えば、本書が伝えたいのは研究内容そのものではない。

じゃあ、肝心のメインはなんだというのか?

「研究とは何か」「野外調査とはどういうものか」ということ。

調査や研究の仕方だけでなく、合間合間にフィールドワークの楽しさがさりげなく挟み込まれている。こういう研究は一人でできるものではなく、たくさんの人が関わっていることもよくわかる。

新人研究者として研究をおこなう上で大事なことも描かれている。

一人で考えるのではなく、先生や仲間といっしょにデータ分析をしたり、たとえ自分の研究対象でなくとも飛び込んでみたり。

世界中のバイオロギング研究者に、同様の事態(グルグル回る)を見たことがないか電子メールで尋ねたところ、続々と返信がきたシーンなどは鳥肌が立ったものだ。

すでに出された論文や実験結果を参考に、仮説を立て検証実験を考える場面もある。

本号は研究ってこんな楽しいことしてるんだよ、と子供たちに紹介する絵本でもあるのだ。

さらに「作者のことば」には、研究者に向くのはどんな人か、とくに野外調査はどういう人が向いているかということが書かれている。

”ふしぎ”を知ると、世界が変わる! 「たくさんのふしぎ」ブログ: 11月号『なぜ君たちはグルグル回るのか』作者のことば

驚くべきは、イラストを担当したきのしたちひろさんも、研究者その人だということ。佐藤先生が言われるとおり「研究するイラストレーター、あるいは、自ら描くイラストでアウトリーチまでできてしまう研究者」なんて最強ではないか。研究の中でも絵を描くことはあるけど、絵本のイラストとはまるで方向性が違うものだ。まして伝える相手は子供。ときにコミカルに、ときに正確を期して描かれるイラストの、表現力の高さには驚くばかりである。

 

しかし……移動する海の動物たちには、なんらか方法を使ったGPS機能が備わっているようだけど、人間にはないものなんだろうか?『舟がぼくの家(第167号)』で、星や波を見て航海する人の話を紹介したが、彼らが頼みにしているのは、果たして自分の「視覚」だけなのだろうか?

本号でのウミガメの調査はモヘリ島父島でのものが紹介されているが、『バイオロギング―最新科学で解明する動物生態学』には、アカウミガメ大槌湾における調査が報告されている。36〜39ページ「アカウミガメ クルクルまわって、こまめに方向修正」という箇所だ。著者は楢崎友子氏。もしや「トモコ」のモデルというのは楢崎先生なのでは……?

クルクルまわる海洋動物 ―複数の海洋大型動物に共通してみられる旋回行動を発見― | Research at Kobe

津波にあった大槌の研究所、海洋動物研究の3.11とそれから | ナショナル ジオグラフィック日本版サイト