『ウミガメは広い海をゆく(第174号)』の「作者のことば」で「すぐに行けるような海岸や浅い海は、大きな大きな玉手箱の、入り口のようなもの」と語っていた吉野さん。
本号は、その大きな大きな玉手箱の中身をたっぷり紹介した絵本だ。
今の写真技術とは比ぶべくもないが、それでも30年前とは思えぬほど美しい。
何より、あれもこれもこんな生きものもあんなシーンも紹介したい!ぜ〜んぶ見せたい!ぜ〜んぶ見てほしい!そんな吉野さんの熱意がひしひしと伝わってくる。
舞台となるのは大瀬崎というダイビングスポット。
吉野さん曰く「いつでも好きな時に行ける、ぼくの大切なホームグラウンドみたいな海」だそうだ。伊豆の海は、世界中の海をのぞき、さまざまな生きものを見てきた男が「生物の種類もとても多く、世界中のどこの海とくらべても、けっしてひけをとらない」と太鼓判を押す場所なのだ。
漫然と海のなかを見せるのではなく、一つ一つの生きものをクローズアップし、ていねいに紹介している。陸にいながらにして、一緒に潜って生きものガイドを受けている気分になれる、本当にぜいたくな本だ。
海洋ゴミの問題もさりげなく盛り込まれている。
カモフラージュにプルトップを利用するラッパウニ。牛乳瓶をすみかにする小さなタコ。
今や牛乳瓶もプルトップもほとんど見かけることはないが、かわりに海洋プラスチック問題が取り沙汰されている。ゴミの種類が変わっただけで、30年経ってもゴミ問題は解決を見ないままだ。
「作者のことば」のお題は「ポンタ、元気かい?」。
ポンタとは、かつて座間味島のニシバマというスポットで人気を博したサザナミフグのこと。同時代を生きていたのに知らなかったが、新聞や本で紹介され、テレビや映画にも出演したアイドル魚だった。ポンタを「発掘」し、名付け親となったのが吉野さんたちだったという。
ポンタが現れてから、もう、4〜5年がたちます。毎年座間味島を訪れるぼくは、ポンタが元気にやってるかどうか、心配しながらニシバマの海に潜りに行きます。(本号「作者のことば」より)
アイドルフグだけあって、記録している人がたくさんいらして面白かった。1994年くらいにはいなくなってしまったようだ。