こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

光る石 北海道石 新鉱物Hokkaidoiteはっけん記(第473号)

奇跡的かつ貴重な絵本だ。

なんせこの北海道石の発見は2023年。できたてほやほやホットな段階での出版なのだ!「たくさんのふしぎ」は月刊誌だけど、年単位の時間をかけて作られるものが多い。それを1年やそこらで仕上げている。これも『石は元素の案内人(第449号)』『いろいろ色のはじまり(第463号)』と、立て続けにタッグを組んでいたおかげだ。初めて作者と仕事するのだったら、こんな早く出版に漕ぎつけられなかっただろう。

熱々をそのまんま提供してるので、密度の濃いこと。

大人の私が1回で読み切れなかった。次から次へと濃ゆいページが続くので、途中息切れしてしまったのだ。クライマックスには本号のメインたる素晴らしいシーンがあるのだけど、行き着く頃にはもうヘトヘト。正直もったいないなあと思ってしまった。もはやガチすぎて「大人の本」になってしまってるんじゃないか。

たとえば20ページ。「質量分析計」という聞き慣れないものが出てくる。もちろん解説が付けられている。小学生にもイメージしやすい言葉で。しかし次に登場するのも「単結晶X線結晶構造解析」。これまた聞き慣れない言葉だ。しかも同じページには「質量分析の結果」のグラフがありそこにも解説が付けられているのだ。さらに「質量分析計」と「単結晶X線回折計」の写真。やはり解説がある。いくらわかりやすく書かれていても、こう次から次へ出てくると処理が追いつかない。

さらにである。次のページにかけては、

17ページでみなさんにも見てもらったように、

と、前に戻って見直す作業が出てくる。その17ページもまた、コロネンという新しい言葉が出てきており、ていねいに解説が書かれているのだ。

息つくヒマがないというか、とにかくず〜〜っと頭を使って読み続ける必要がある。いろいろなことを伝えたい!あれもこれも知ってほしい!という意気込みは伝わってくるのだが、受け止めるこちらはちょっとしんどく感じてしまった。

あまりに“科学語”中心に書かれていて、隔靴掻痒もどかしい思いが出てきてしまう。その辺の子供の本では得られないような知識や知見も大事だが、もっとシンプルに発見の楽しさや自然の美しさを伝えてくれてもよかったのかなと。

1ページ1ページ、興味を引かれることばかりなのだ。でも噛み砕くのに時間がかかる。それが連続すると心を動かす余裕がなくなってくる。42〜43ページなど本当に素晴らしいのに、何度か読み直してやっとのことで落ち着いて思うことができた。

北海道石をだいじに守っているのは、アイヌ民族にキムンカムイ(山の神様)とよばれた、ヒグマなのかもしれません。

という一文と、威風堂々たるヒグマの姿。奄美の森はハブに守られていると言われるが、北海道の自然もそうなのかもしれない。主人公たる「北海道石をふくむオパール」も、ヒグマに負けないパワーを感じさせる。

もちろん、私がどんな感想を持とうが、子供たちはそれぞれ勝手に読むことだろう。わかんなきゃ放り出すだろうし、わからないなりに一生懸命読む子もきっといる。写真や絵を中心に楽しんだっていい。紫外線ライトほしいとか、石探し行きたいとか、化学やりたい楽しそうって感じる子もいるはずだ。中高生になって本格的に化学を勉強して、ああそういうことだったのかと思い出して理解する子もいるだろう。

 

繰り返すが、奇跡的かつ貴重な絵本なことには変わりない。

新鉱物「発見」がいかに難しいか。有機鉱物の不思議さ。カルパチア石の秘密。採掘と分析の面白さと難しさ。名付けや手続きの方法。模式標本収蔵や学会発表のこと。そして産地保護の提案という「だいじな仕事」。化学屋として科学者として当たり前のところを、子供たちにも知ってほしい。その辺のところを最前線にいる発見者が直に伝えてくれるというのは、本当に貴重で奇跡的な試みなのだ。なんせ作者は現役真っ盛りの研究者。忙しい合間をぬって絵本に携わるには相当な熱意が要る。最近は一般や子供向けに本を書く研究者も出てきてるが「たくさんのふしぎ」は雑誌だ。文も絵も写真も盛り込んで労力かけて作って……でもあくまで月刊誌なので限られた期間しか売り出されない運命にある。そんな特殊な形態の絵本をどうして皆引き受けるのか、やはり「たくさんのふしぎ」に長年積み重ねてきた信頼があるからだろう。

裏表紙の美しさはため息が出るほど。いつまででも見ていられる。石に魅せられる(取り憑かれる?)人の気持ちがちょっとだけわかった。

上で「月刊誌という特殊な形態」と書いたが、やはり小学生向けの「たくさんのふしぎ」は近年苦戦を強いられていたようだ。未就学児向けは保育園幼稚園の販売ルートが確立しているが、小学生しかも中学年以上になると読みたい本がバラバラになってくる。現に私は現役小学生時代「たくさんのふしぎ」を知らなかった。幼稚園で「こどものとも」「かがくのとも」を読んでたのに。部数回復に向けPR方法に悩んでいたところ、転換点となったのが『石は元素の案内人』だったという。確かに当時、Xアカウントでお見かけしていたが、思ってた以上に「たくさんのふしぎ」の売り上げに貢献されていたとは知らなかった。

 

書いた後つらつらX見てたら。

え〜〜!!そんな事情あるの!?ということで歴代8月号を並べてみた。

1985年08月号    恐竜はっくつ記
1986年08月号    さかさまさかさ
1987年08月号    セミのおきみやげ     
1988年08月号    星空はタイムマシン
1989年08月号    あっ、流れ星!
1990年08月号    花がえらぶ 虫がえらぶ
1991年08月号    石ころ 地球のかけら
1992年08月号    大きなヤシの木と小さなヤシ工場
1993年08月号    海は大きな玉手箱
1994年08月号    象使いの少年スッジャイとディオ
1995年08月号    海はもうひとつの宇宙
1996年08月号    小さなプランクトンの大きな世界
1997年08月号    貝ものがたり
1998年08月号    ぼくが見たハチ
1998年08月号    おしりをふく話
1999年08月号    糸あそび 布あそび
2000年08月号    ほらふきおじさんのホントの話
2001年08月号    風車がまわった!
2002年08月号    じいちゃんの自然教室
2003年08月号    ウミウシ
2004年08月号    種採り物語
2005年08月号    プーヤ・ライモンディ 100年にいちど咲く花
2006年08月号    トーテムポール
2007年08月号    モグラの生活
2008年08月号    こおり
2009年08月号    おぼん ふるさとへ帰る夏
2010年08月号    もじのカタチ
2011年08月号    まちぼうけの生態学 アカオニグモと草むらの虫たち
2012年08月号    ウナギとりの夏
2013年08月号    ウミショウブの花
2014年08月号    小さな南の島のくらし
2015年08月号    しっぽがない! コアラとヒトのしっぽのなぞ
2016年08月号    分水嶺さがし
2017年08月号    動物たちが教えてくれる 海の中のくらしかた
2018年08月号    デタラメ研究所
2019年08月号    クジラの家族
2020年08月号    空があるから
2021年08月号    ギアナ高地 謎の山 テプイ
2022年08月号    石は元素の案内人
2023年08月号    犬といっしょにイカダ旅
2024年08月号    光る石 北海道石 新鉱物Hokkaidoiteはっけん記

初期作品だと『セミのおきみやげ』『花がえらぶ 虫がえらぶ』『海はもうひとつの宇宙』『ぼくが見たハチ』など読み応えがある。『糸あそび 布あそび』は、時間のある夏休みにチャレンジしてみようって感じかな。近年なら『まちぼうけの生態学 アカオニグモと草むらの虫たち』『しっぽがない! コアラとヒトのしっぽのなぞ』『デタラメ研究所』『空があるから』『石は元素の案内人』など確かに歯応えたっぷり。ただ海とか海の生きもののトピックも多いので、単に夏らしいテーマを選んでるのもあるだろう。