こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

アシカとアザラシ(第475号)

最近Xに流れてくるのが、#アザラシ幼稚園。

オランダにある野生アザラシ保護施設、ピーテルブーレンアザラシセンター関連のポストだ。リハビリプールでのんびり過ごすアザラシたちに和みっぱなしになる。

アザラシの愛らしさは動きにある。陸の上じゃずんぐりボディを持て余し気味なのに、海の中では一変、素晴らしく俊敏な泳ぎを見せる。そのギャップが面白い。

一方でアシカはショーの主役を張れるほどの芸達者。下の写真は今夏山形に行ったときに撮ったものだが、プールの縁に手をかけバランス芸を披露している。

アシカとアザラシ(鶴岡市立加茂水族館

アザラシに会いたい(第240号)』で触れたとおり、アザラシもアシカも野生を見る機会は少ない。この絵本はそんな野生の姿をたっぷり紹介している。

タイトルこそ「アシカとアザラシ」だが、鰭脚類をテーマにしている。要は「アシカのなかまとアザラシのなかま」。すなわち、鰭脚類はアシカ科、アザラシ科、セイウチ科に分かれているが、うち「アシカ科」と「アザラシ科」を取り上げているということだ。

「アシカのなかま」とは何か?アシカそのものをはじめ、オットセイ、トド、オタリアなどが含まれる。では「アザラシのなかま」とは?〇〇アザラシと付くものは基本アザラシのなかまだ。ゴマフアザラシとかバイカルアザラシとかゼニガタアザラシとか。

途中で解説が出てくるし、分類など知らなくても楽しめるが、頭に入れておくと読みやすい。

じゃあ「アシカのなかま」と「アザラシのなかま」の違いは何か?もちろん本書にも書いてあるが、↓こちらを見るとわかりやすい。知っておけば動物園・水族館でも迷わず区別できるだろう。

ぎんいろ | ミミクリーズ | NHK for School

 

アザラシ保護施設はオランダだけでなく我が国にもある。オホーツクとっかりセンターだ。なぜ保護施設が設けられているのか?彼らの子育てに一因がある。授乳期間が短いのだ。タテゴトアザラシは12日間、ズキンアザラシに至ってはなんと4日間だ!日本に定住するゼニガタアザラシでもせいぜい2〜3週間、1ヶ月も立たないうちにひとり立ちする。

そのためアザラシの多くは、親の庇護を受けることなく旅立っていく。畢竟、保護が必要な状況に陥る*1というわけだ。「ダーウィンが来た!」のヒゲじいよろしく「ちょっと待った〜!」と言いたいところだが、アザラシ母さんにも彼女なりの理由がある。その辺の事情は本書を読んで確かめてみてほしい。じゃあアシカはどうなのか?ということも含めて。

 

「作者のことば」のタイトルは「アシカ、アザラシがたどった道」。この本はアシカ、アザラシの暮らしぶりを紹介するだけでなく、暮らしぶりから進化の流れを見せるものでもある。詳しくは28ページから読めばわかるが、この辺の流れをつかんだ後、最初から読み直してみるとよりよく理解できると思う。

ニホンアシカのようにほぼ絶滅してしまったものもいる。ご多分に洩れず人間のせいだ。そして今、乱獲など直接手をかける以上の、もっと大きな環境変化が起こっている。これも「人間のせい」だ。私たち自身否応なく肌身で実感させられている。

私たち人類がもたらしてきた近年の地球環境の変化は、野生の動物たちが適応するにはあまりにも早すぎるものです。

6度目の大絶滅の真っ最中にある、と主張する科学者も現れている。とくに極地は温暖化の影響を受けやすい地域だ。ここにはアザラシたちも多く生息している。しっかりと結氷するかどうか、文字どおり死活問題になるのだ。結氷だけではなく、エサとなる生きものや天敵への対応にも影響がある。変化に適応できず今後いなくなってしまうのか、それとも意外な形で生き延びる方法を見つけるのか……その答えを知るには、私たち人間に与えられた時間はあまりにも短い。

*1:もちろん要因は人間にもある。