こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

砂漠の虫の水さがし (たくさんのふしぎ傑作集)(第136号)

地下にさくなぞの花(第186号)』では、“となりのおじさんの話”をあたため続けていた作者。本号『砂漠の虫の水さがし』は、“父の本だなの中の一冊”から始まるお話だ。

10歳のころ出会ったその本は『砂漠は生きている』。ディズニーの同名映画「砂漠は生きている」をもとに作られた写真集だ。

 焼けつくように暑い砂漠の中で、動物や昆虫はどうやって生きているのだろう。水はどうしているのだろう。食べものは、すみかは……。毎晩その本を読みながら、ぼくは考えていました。

 本に出会ってから20年のあいだに、砂漠の生きものをこの目で見てみたいという夢は、おさえきれないほどにふくれあがりました。そしてある日、ぼくは思いきって、南西アフリカの砂漠に行くことにしたのです。

最初に訪れたのはカラハリ砂漠

でも期待していたような、砂だけの風景ではないのです。僕は少しがっかりしました。

意外や意外、そこは生きものに満ちた場所でもあったのだ。ゲムズボックの群れに会ったり、ライオンの吠声を子守唄に寝んだり。ミーアキャットのユーモラスな仕草に和んだり。二週間ほど、カラハリ砂漠の生きものたちを見て過ごす。

でもぼくは、どうしても、木が一本もはえていない、砂だけの砂漠にすむ生きものを見たいと思いました。

そこで向かったのがナミブ砂漠カラハリ砂漠から1000キロほど西に行ったところにある。「ふしぎ」でも『ナミブ砂海 世界でいちばん美しい砂漠(第374号)』で取り上げられている。

 ああ、うつくしい。なんてすごいんだ。ここに来たかったんだ。ぼくは興奮して、猛スピードで走る車の窓から、手を思いきりつき出して、熱風をたたいていました。

『地下にさくなぞの花』もそうだったが、作者のその時感じた思いがストレートに表現されている。できごとや体験そのままでなく、感じたこと思ったことが存分に織り込まれているのがこの本の魅力でもある。

ナミブ砂漠で先生となったのが、Mary Seely博士。シーリー博士は「ナミブ砂漠研究所」の設立者にして(当時)30年ものあいだ砂漠の昆虫を研究してきた女性だ。砂漠で昆虫がどうやって水を得ているかに着目して研究をおこなってきた。調べてみると2019年12月に80歳の誕生日を迎えたとある。今は82歳。ご健在だろうか。

博士から「サカダチゴミムシダマシ」という面白い虫を教えてもらった作者は、

「サカダチゴミムシダマシを見るまでは、日本に帰らないぞ」ぼくは決心したのです。

果たしてこの虫を見ることができたのか?それはぜひ本書を開いて読んでほしい。サカダチゴミムシダマシに限らず、砂漠の虫たちの生き様と、作者の体当たりの観察が余すところなく描かれている。

驚くべくは、作者の探求心と粘り強さだ。『地下にさくなぞの花』然り『砂漠の虫の水さがし』然り。以前『五麗蝶譜―シジミチョウとアリの共棲』という素晴らしい著作を読んだことがあるが、自分の目で見、確かめたいという姿勢は変わることがない。

世に楽しく昆虫を紹介する本はあるが、生息地に出向き、自分の目で見、心で感じ、その体験を率直に語りかける本というのはなかなかない。

たとえば、サカダチゴミムシダマシは『超図解-ぬまがさワタリのふしぎな昆虫大研究』でも「キリアツメ」として紹介されている。ユーモラスでわかりやすいイラスト、コンパクトにまとめられた解説、とても読みやすい。私もぬまがさワタリさんの本は好きだし、子供たちにとっても良き入門となるはずだ。

しかし、こういう図鑑的な“出会い”だけでなく、生の体験を通して語られる“出会い”も必要なのだ。作者が体験した“出会い”をそのまま追体験できるような。「たくさんのふしぎ」のほとんどはそういうスタンスで作られている。

子供のころ出会った本が、その後の人生に影響を与える。もしかしたらこの本も、読む子供たちにとってそんな本になるのかもしれない。作者にとって「隣のおじさんからもらった本」や「父の本だなの一冊」がそうであったように。

 

作者の山口進氏は、ジャポニカ学習帳の表紙を飾る写真を、40年近くにわたり撮り続けてきた。私も小学生のとき使っていたので、期せずして山口さんの写真を見ていたことになる。そして私の息子も。

学習ノートの表紙写真を38年にわたり1200枚以上撮り続けているスゴい人! | 日刊スゴい人!

子どもたちは、遊ぶべきです。
私が子どもの頃は本当によく遊びましたね。物を作り、それで遊び、創作の連続でした。
遊びを通じて見た色々な世界は、今でも私の柔軟な発想を支えていると思います。

とおっしゃる人が、子供たちの使うノートを支えてきたなんて最高ではないか。山口さんはいつも、子供のころの出会いや体験が、大人への道に続いていることを教えてくれる。

ジャポニカ学習帳に昆虫復活 苦手な子にはイラスト版も:朝日新聞デジタル

ジャポニカ学習帳に「昆虫シリーズ」が復活…虫が苦手な子への工夫もされていた

昆虫が消えてしまったのは残念だけど……。