こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

まど・窓・まど(第467号)

たくさんのふしぎ」で多く取り上げられるテーマの一つに「家」がある。

小松義夫氏のように、世界の家々を紹介したものもあれば、

世界あちこちゆかいな家めぐり (たくさんのふしぎ傑作集) (第146号)

土の家(第295号)

家をかざる(第409号)

家をまもる(第445号)

小野かおる氏のように屋根、壁といった要素を取り上げたものもある。

やねはぼくらのひるねするばしょ (たくさんのふしぎ傑作集)(第50号)

かべかべ、へい!(第114号)

家の開口部、戸口や窓をテーマにした『あけるしめるでるはいる(第129号)』のような本もある。

そんな「ふしぎ」で今回取り上げられるのは「窓」

作者は北欧をテーマにした「ふしぎ」でおなじみの、深井聰男氏&深井せつ子氏のご夫妻。

本の窓と外国の窓を比べたり。

今の窓と昔の窓を比べたり。

日本の家と西洋の家とで建築工程を比べることによって、窓の作り方や窓に対する考え方がどう違うか比べたり。この建築プロセスの違いは『やねはぼくらのひるねするばしょ』でも屋根について取り上げられている。

窓は家にとって不可欠なもの。だが、開きっぱなしのままでは雨雪や害虫など招かれざる客も入ってきてしまう。

今でこそガラスという優れた素材が使われているけれど、昔の人はさまざまな材料で工夫を凝らして窓の開放部を塞いできた。年末にやってた「ドキュメント72時間」では、大阪の古アパートに越してきた住人が、建てつけが悪くて新居の窓が閉まらないのをベニヤ板切り出して速攻塞いでたけど、窓が思い通りに開いて閉まるというのはありがたいことなんだなあとしみじみ思ってしまった。

「大阪 昭和から続くアパートで」 - ドキュメント72時間 - NHK

今あるような窓ガラスが普及したのはつい最近のこと。この辺りの歴史事情も簡単に解説されているが『ガラス 砂の宝石(第68号) 』と重なるところがある。

『家をかざる』『家をまもる』とも通じる話があったりで、上に紹介した8冊の「ふしぎ」について、今度は窓の部分に注目して読み比べてみたいなあと思った。

文章量が少なくイラストも控えめで、ちょっと物足りなさを感じるところもあるが、テーマである「窓」のとおり、風通しよくすっきりと仕上がっている。

物足りなさというと何か不十分みたいな印象を持たれると思うが、決してそうではない。説明し過ぎない、内容を盛り込みすぎないというのは、実は大事なことなのだ。「たくさんのふしぎ」は知識を与えるだけの本ではない。本の内容を参考に、自分でも疑問に思ったことを調べてみる、興味を持ったことを比べてみる、そのきっかけとなる役割を担っているからだ。窓一つとってもさまざまな世界や歴史や人の暮らしとつながっている。この本がこれまでのいろいろな「ふしぎ」とつながっているように。

合わせて読んだのが『みんなのいえ』。福音館でも描いているたしろちさとの絵本だ。

最初にとびらを開けて家の中に旅人が入っていくシーンと、「まどが ちいさくて なんだか くらい いえ」という家の壁に穴を開けて窓を作るシーンが印象的だった。

扉を開けるシーンは内開き、確かに絵の感じからすると西洋風の家なので、お!『まど・窓・まど』で書かれるとおりだ!と面白い気づきがあった。このシーンは見捨てられて暗く沈んだ家に、再び光が差し込んでくるというとこをうまく描いている。これから始まる「家のものがたり」の幕開けを感じさせるものだ。

屋根や壁にあちこち空いた穴をようやく塞いで暮らし始めると、今度は暗さが気になってくる。

「もっと ひかりが はいらないと いい いえとは いえないね」

かべを こわすと、

おおきな まどが できました。

きもちのいい かぜが はいってきます。

パッと部屋が明るくなる様子は、住む人が増えて喜んでいる、家の気持ちを表しているようでもある。

寒々しかった家が、人の関わりでみるみるうちに輝きを取り戻し、暖かな場所に変貌を遂げるさまは見事。同じ冬のシーンなのに、最初と最後ではまるで違う家のようだ。窓からもれるやわらかな光が温もりを感じさせる。『まど・窓・まど』では、家の弱点にもなると書かれているが、これまた『まど・窓・まど』で表現されるとおり、窓は家のチャームポイントにもなるのだ。

この絵本には、“絵本『みんなのいえ』に寄せて”という別紙が付けられていて、作者のことばが寄せられているが、中にこんなことが書かれている。

でも、もう少しプリミティブな意味で“住まう”ということを考えてみると、木や、土や、光や風…そんな身のまわりの自然がとても大切な要素に思えてきます。住人ひとりひとりが工夫を凝らして、身のまわりの自然を自分たちの生活に取り入れる家、アイディアや遊び心がつまった家…それが「みんなのいえ」です。

自然は大切な要素だけど、家を自然のまま放っておくと荒れ果ててしまう。自然とうまく付き合うためには人の手が必要なのだ。窓は、家と人とが自然とうまく調和するための通り道、といえるかもしれない。

数えてみると、だんだん増えていく家の住人は最後10人に達するようだが、これはもしかしたら「住人」とかけてるのか!?

このお話は、かつて福音館で出版されていた月刊誌「おおきなポケット」2001年9月号に収録されていたのを再編集し単行本化されたもの。作者のデビュー作でもある。読むことのできなくなったお話を、装いも新たに出版するという意味では、この絵本自体が『みんなのいえ』を地でいくものかもしれない。『みんなのいえ』の続きを想像する、自分の『みんなのいえ』も考えてみる、という意味でも。